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日本人王者対決は激闘に…2団体統一・寺地拳四朗の名参謀が語った勝因とは?「京口選手の怖いところは…」「あの回は助かりました」
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2022/11/03 11:02
11月1日に行われたWBC王者・寺地拳四朗(右)とWBAスーパー王者・京口紘人によるライトフライ級2団体統一戦。手に汗握る激闘を制したのは寺地だった
もう一つ、寺地陣営が磨いてきたのがワンツーだった。タイミングや角度を変えた右ストレートをキーパンチに使った。5回の最初のダウンも、7回に試合を終わらせたダウンも、右ストレートが火を噴いた結果だった。
「前足をフェイントに使って、角度をずらして打つ。あるいはずらさないでそのまま打つ。今回のワンツーは京口戦に向けた練習の中で身につけたものです。ワンツーには自信があったし、もしKOできるとすればワンツーだと思ってました」
打ち疲れ、京口の猛反撃で一転ピンチに
さらにもう一つのプランにも触れておきたい。いわば「縦の攻撃」とも言えるジャブ、ワンツーが機能しなかった場合に用意していた「横の攻撃」だ。
「京口選手はすごくガードが固い。それを利用して、ガードに左右のフックを当てて、京口選手の重心をずらそう(バランスを崩そう)としました。でも、何発かガードを叩いたんですけど、京口選手の体はまったくブレない。あれはさすがでした。結果的に縦の攻撃がメインになりました」
横の攻撃は京口に通じなかったが、寺地は思惑通りジャブをヒットし、右ストレートにつなぎ、練習通りの動きでWBA王者が反撃するスキを与えなかった。「2ラウンドくらいで相手を飲み込めたと思う」と本人が振り返るように、快調なペースでポイントを獲得していった。
セコンドの加藤トレーナーは寺地の動きに満足しつつも、京口がいつ爆発するのか、不気味なものも感じていたという。
「ポイントを取っていたから余裕があったかといえばそうでもなかった。京口選手の戦いは一貫していて、止まったら噛みつくぞ、というボクシング。止まったら一気にいく。一流のファイターは止まった瞬間を逃さない。そこは怖かったですね。そうさせたくないから拳四朗には動きを止めるなと。京口選手のプレッシャーが強いので、拳四朗の運動量は自ずと上がりました」
ハイペースでパンチを出し続ける寺地がピンチに見舞われたのは5回だった。右ストレートでダウンを取ったあと、猛然とラッシュを仕掛け続けたが、フィニッシュすることができない。ここを何とかしのいだ京口が今度は猛反撃。ラウンド終盤、寺地は「バテただけ」とパンチによるダメージを否定するが、いずれにしてもフラフラの状態になってゴングに救われた。いいところのなかった京口が初めて手にしたチャンスだった。