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野球クロスロードBACK NUMBER
センバツ当確の東北高で“まさかの大改革”…元巨人の新監督「ヒロシさん」の指導でエース・ハッブス大起が覚醒「本当に新しい感覚」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2022/10/23 08:01
東北大会準Vでセンバツ出場を当確させた東北ナイン。新監督「ヒロシさん」の改革とは?
下級生からベンチ入りし、脱皮を期待されてきた右腕は伸び悩んでいた。
「ハッブ、8割の力で投げてみろ」
ヒロシが告げたのは、県大会決勝直前だった。相手はあの仙台育英である。
「なに言ってんだ、この人」
内心で怪訝をぶつけるハッブスを諭すように、ヒロシが狙いを説明する。
「全球フルスイングするバッターって、そんなに打てると思う? ピッチャーも同じだよ。力を抜くってことは打たせて取ることにもなるし、それを前提として投げれば周りをよく観察できるようになるから」
仙台育英戦に先発したエースは6回無失点の快投を演じ、チームを優勝へと導いた。
「なっ! 周りがよく見えただろ」
監督の助言によって、ハッブスは新境地が見えてきたのだと手応えをにじませた。
「育英戦のピッチングが、自分にとって本当に新しい感覚で。8割くらいの力で投げても、相手のバッターは詰まるんですよね。ヒロシさんにアドバイスをもらってからは、バッターをより観察するようになりましたし、うまく脱力させるために(踏み出す)足の歩幅を変えてみたり。試合を重ねるごとに、いい感覚を掴めている感じです」
名門から「高校野球を変える」
ヒロシの対話はグラウンドだけではない。東北高校野球部は、監督の朝の座学から始動するのだという。
挨拶から掃除の心構え、助け合いの精神……。選手は監督の話に耳を傾けるだけでなく、ノートに書き留める。「学校の道徳の授業みたいなもんです」と、ヒロシが微笑む。
「コミュニケーションは本当に大事にしているつもりです。60歳のオヤジと16、17歳の高校生がこれだけ話ができるっていうのは、どこにも負けない自信があります。子供たちには、大人の力を借りなくてもひとりで自立できる人間になってもらいたい。それは自分だけのためじゃなくて、10年、20年後の子供たちのためにも」
ヒロシの改革は、まだ序章に過ぎない。
名門校であるが故に、新たなアプローチが明るみに出れば批判も出るだろう。だからといって、「高校野球を変える」と豪語した以上、屈するわけにはいかないのである。
「いつでもうちのグラウンドに来てください。練習を見てもらって、悪口を書きたければ書いていただいて結構なんで」
そう言って、笑い飛ばす。
東北高校のヒロシさん。肝が据わっている。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。