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アイルトン・セナに“勝利への執念”を叩き込まれたホンダが、伝説の継承者フェルスタッペンと歩む新たな歴史
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images / Red Bull Content Pool
posted2022/10/14 06:00
決勝レースは雨で混乱したものの、フェルスタッペンとレッドブルは週末を通じて速さと強さを見せつけた
「セナほど、勝つことへの執念が強かったドライバーはいません。セナは目標を達成するため、時に激しく要求を伝えてきました。だから、私たちホンダも彼が満足のいくドライビングができるよう、現場で必死にエンジンの調整をしていました。でも、その調整に納得できないと『これじゃ、勝てないんだよ』って、何度も言われました。そして、自分が納得するまで話し合う。そして、また乗って納得するまで試す。そういう点では稀有なドライバーで、勝利に対する貪欲さを当時のホンダのスタッフ全員がひしひしと感じていました。そうやってレースを戦うんだということをセナに叩き込まれ、そんな仕事のやり方はホンダのレースエンジニアの中に脈々と受け継がれるようになりました」
フェルスタッペンの思いは間違っていなかった。ホンダはレッドブルとパートナーを組んだ1年目に復帰後初優勝を飾ると、2年後の21年にフェルスタッペンとともにドライバーズチャンピオンに輝いた。
ホンダは21年限りでパワーユニットマニュファクチャラーとしてのF1参戦を終了した。それでも、レッドブル・グループからの要請を受け、いまもホンダ・レーシング(HRC)としてパワーユニットを供給。そのパワーユニットは「レッドブル・パワートレインズ」という名前でレッドブルとアルファタウリに搭載されている。昨年まで両チームのマシンに入っていた「HONDA」のロゴは「HRC」に変わったのだが、日本GPを前にレッドブル・グループはホンダとのパートナーシップを強化。日本GPを含めた今季残り5レースで、両チームのマシンに「HONDA」のロゴを復活させた。その決定は現場で仕事するHRCのスタッフたちにとって重要なメッセージとなった。
母国・鈴鹿で勝利する価値
今年、HRC側のマネージャーとしてレッドブル・パワートレインズとの調整役を担っている吉野誠は、3年ぶりの母国グランプリを前にこう語っていた。
「鈴鹿にはHRCのスタッフはもちろん、ホンダ本社の人々、関連企業の方たちなど大勢の身内がやってきます。そういう人たちへも勝って恩返しをしたいという気持ちが強い。少なくともホンダのスタッフにとって、鈴鹿での日本GPは22戦分の1戦ではありません。モナコGPでの勝利はほかのグランプリの3勝分の価値があると言われますが、私にとっては鈴鹿は遥かに上。個人的には10戦ぐらいの重みがあります」
その鈴鹿で「HONDA」のロゴをまとったマシンが1−2フィニッシュを飾り、チャンピオンを獲得。フェルスタッペンは鈴鹿での戴冠の意味と価値を語った。
「僕たちは昨年タイトルを獲得したけど、ホンダはいまも進化を続けている。そのことを僕は誇りに思う。彼らはF1の表舞台から名前が消えても冷静さを保ち、やるべきことを理解し、やり続けている。だからこそ、いまの僕たちがある」
今季以前にホンダが鈴鹿で勝利を収め、セナとともに王者となったのは91年のこと。31年後、ホンダはフェルスタッペンという現代最強のドライバーとともに、新たな伝説を歩み始めた。
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