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アントニオ猪木はなぜモハメド・アリ戦で“リアルファイト”にこだわったのか? 繰り返したローキック、極限の緊張感「生きるか死ぬかだからね」 

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堀江ガンツ

堀江ガンツGantz Horie

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posted2022/06/26 11:03

アントニオ猪木はなぜモハメド・アリ戦で“リアルファイト”にこだわったのか? 繰り返したローキック、極限の緊張感「生きるか死ぬかだからね」<Number Web> photograph by Getty Images

1976年6月26日、アントニオ猪木vsモハメド・アリの格闘技世界一決定戦

「お金を払った観客が文句を言うのは仕方がないけど、あのとき、テレビ、新聞、雑誌でボロクソに言った有名人の名前、俺はハッキリと憶えてるよ。あいつと、こいつと、こいつって。もうふたりばかり死んでるけどね。ざまーみろだよ。何もわかってねえやつらが、『あんなの誰でもできる』とか言いやがってな。

 あと、何も知らねえ有名人ならともかく、記者連中までボロクソに書きやがってな。俺は記者に言いたかったよ。『俺らが糞だったらお前らは糞バエじゃねえか!』って。糞にたかって食ってるわけだからな。何をくだらねえこと書いてるんだって」

「世紀の茶番劇」が総合格闘技に遺したもの

 こうして当時はさんざん酷評された猪木vsアリだが、現在その評価は一変。「大凡戦」から「総合格闘技の原点」「史上最も緊張感に溢れた一戦」という、正反対の評価で語られている。その理由は、「猪木vsアリはリアルファイトだからこそ、あのような試合内容になった」ことを大衆が理解できるようになったからに他ならない。

 現在、プロレスは完全なエンターテインメントスポーツとして確立し、リアルファイトの総合格闘技とは、完全に棲み分けされるようになったが、総合格闘技の原点をたどると、46年前に猪木が勇気を持って踏み出した一歩につながる。そして、じつはアリもまた同じ思いを抱いていたと考えられているのだ。

 アリは猪木戦後、この試合については多くを語ることはなく、その後はパーキンソン病を患ったこともあり、アリが猪木戦をどう思っているかは推測するしかなかった。そのアリは晩年、現在の総合格闘技最高峰であるUFCを主催するデイナ・ホワイト代表宛に、ツイッターで「俺がMMA(総合格闘技)の元祖だって知ってるか?」と、猪木戦の写真とともに投稿。それに対してデイナ・ホワイトは「あなたこそが、マーシャルアーツの元祖です」と返信した。

「世紀の茶番劇」と呼ばれた猪木とアリの闘いは、総合格闘技という大河につながる大いなる一滴だったのである。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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