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「監督の指示を待つ野球は面白くない」優勝候補を撃破→東北ベスト4…“ノーサイン野球”弘前学院聖愛は、なぜ結果を出せるのか
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2022/06/16 06:00
東北大会でベスト4。弘前学院聖愛は「ノーサイン野球」の成果を証明した
2年生ながら主力として全国を経験した現キャプテンの丸岡昂太郎は、弘前学院聖愛の野球はノーサインの実践以上に、チームの思考力こそが肝なのだと強調する。
「ノーサイン野球がやれているのは、『考える野球』を第一に掲げているからで。そこをブレずに試合ができているから、迷うことなく、接戦でも自分たちの判断で粘り強く戦っていけていると思います」
コロナによる実戦不足をどう補ったか
弘前学院聖愛がある青森県は、今年に入ってからも新型コロナウイルスの猛威にさらされていた。少しずつ日常を取り戻しつつある県がある一方で、青森の高校野球は県外のチームと試合が組めないなど制限があったため、対外試合は公式戦を含めても15試合程度と実戦不足は否めなかった。
そんな状況にあっても選手たちは、指導者に高い志を顔つきで見せてきた。
満足に練習ができずとも「チームの足並みは揃えることができる」と、頻繁にオンラインミーティングを行ってきたのである。そこには原田やコーチも参加したというが、締めの言葉としてひと言、ふた言話す程度で、主役は選手たちだった。
「試合は少なかったし、全体練習もできなかったりでみんなが集まれなかったんですけど、『やれることはあるだろう』って。ミーティングは自分だけじゃなくて、毎回仕切り役を決めてやったりすることで、また内容も変わってきたり。『ノーサイン』って言われますけど、自分たちは普段の生活から考える習慣がついていると思います」
そう言う丸岡の顔に、自信の色が見える。
弘前学院聖愛には、たとえ実戦が不足していても補えるだけの個性がある。その思考の集合体こそがノーサイン野球なのである。
強豪・仙台育英を撃破
東北大会準々決勝が、まさにそうだった。
優勝候補の仙台育英戦で、それぞれの知略や判断力がグラウンドに放たれる。
エースの古川翼をはじめ控えにも140キロ超えのピッチャーが揃う、東北屈指の相手投手陣に臆することなくバットを振る。スピードが速いと感じればバッターボックスの後ろに立ち位置を変え、内角のボールへの対応が困難だと判断すれば、よりライン際に立ちプレッシャーをかける。もちろん、各々が考えた上でのプランであり、9回までに6得点。「今年は打てるチームじゃない」と判断している原田も、選手たちを称えていた。
「狙い球を絞る。打席の立ち位置を変える。それぞれのアプローチでピッチャーと対峙してくれましたよね。今年のチームなりの考える力がついている。その賜物じゃないですか」
監督が認めた「賜物」。この試合でのハイライトは、延長11回の走塁にあった。