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「監督の指示を待つ野球は面白くない」優勝候補を撃破→東北ベスト4…“ノーサイン野球”弘前学院聖愛は、なぜ結果を出せるのか
posted2022/06/16 06:00
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
Genki Taguchi
「言い過ぎちゃうと反響が大きいもんですから。まあ、いいんですけど」
弘前学院聖愛の監督、原田一範が東北大会中に声のトーンを上げ苦笑いを見せた瞬間があった。虚勢はない。それだけ、自分とチームにプライドを持っているのだろう。
原田が指す「反響」とは、弘前学院聖愛を一躍有名にした「ノーサイン野球」だ。
野球では、攻撃の際に監督が、守備では主にキャッチャーが頭や腕など体の一部を触ったり、暗号のように数字でサインを送ることが多いが、弘前学院聖愛は選手同士のアイコンタクトが合図となる。具体的な指示を出したい場合は監督から伝令を出すこともあるが、ルール上、回数が限られているためノーサイン野球がチームの基軸となっている。
「これがうちのカラーですし、結果も出ていますから。変えるつもりはありませんけどね」
「ノーサイン」はいつから始まった?
東北大会でベスト4。ノーサイン野球の成果を証明したわけだが、このオープンな試みを採用したのは、2001年の野球部創部と同時に監督となった原田の意志によるものだ。
6年ほど前に参加した経営者向けの講演会での訓示が、ノーサイン野球誕生のきっかけだと言われている。
<これからの時代、1球、1球、上司の顔色を窺うような野球型の人間ではダメです>
自らが従事する競技を喩えとした真理に衝撃を受けた原田は、指導者ではなく選手主導の野球を掲げるようになっていったという。
原田がノーサイン野球の起源を語る際に、前述の逸話を挙げることが多い。インパクトが強いため、どうしても「上司の顔色」が記事の見出しにされやすくなってしまい、この言葉だけが独り歩きしてしまっている。
しかしそれは、あくまで原田が感銘を受けた他者の意見であって、自身の方針とイコールではない。チームに落とし込むべきは「監督の顔色」ではなく、選手の顔つきの変化と野球の質の向上である。
主将「『考える野球』を第一に掲げている」
原田がノーサイン野球をチームに浸透させる上で最重要視しているのが「考える野球」だ。野球における1球、1プレー、1アウト、1イニング……それらの意味を選手たちが追求し、チームで共有する。その濃度が高まれば高まるほど、必然的にノーサイン野球の伝達系統も緻密になっていく。
監督が打ち出したように、結果も出す。
「6年ほど前」を16年と仮定するなら、それ以降夏だけに限れば全て県ベスト8以上で2度の準優勝。昨年には8年ぶり2度目の甲子園出場を果たし、ノーサイン野球が脚光を浴びた。