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「大谷翔平はアメリカをエンジョイしていますね」「イチロー、格好よかったじゃないですか」元NHK解説者・ 池井優名誉教授(87歳)が語るMLB日本人史 

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広尾晃

広尾晃Kou Hiroo

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photograph byNanae Suzuki/Wataru Sato

posted2022/04/10 11:03

「大谷翔平はアメリカをエンジョイしていますね」「イチロー、格好よかったじゃないですか」元NHK解説者・ 池井優名誉教授(87歳)が語るMLB日本人史<Number Web> photograph by Nanae Suzuki/Wataru Sato

大谷翔平の大活躍について、長年のMLB愛好家である池井優名誉教授(87歳)も嬉しそうに語っていた

アメリカの野球通を唸らせたイチロー

池井:1993年にNPBでもFA制度が導入されました。僕はFA問題等研究専門委員会の委員の1人でしたが、日本のドラフトはくじ1本で決められてしまう。それに不満を持つ人がいるから「江川事件」みたいなことが起こってしまう。“何年かその球団で選手を続ければ、自分の意思で他球団に移れるようにすればいいじゃないか”と。ただしその時点では、まさか大リーグに行くという発想は全くなかったですからね。

 でも1995年に野茂英雄、1997年には伊良部秀輝が移籍した。黙って持っていかれたんじゃ日本の球団はたまらないということで、1998年ポスティングシステムができたわけです。そして2001年にイチローがこのシステムでマリナーズに移籍しました。

 当時マリナーズのルー・ピネラ監督は、「あのバットボーイみたいな子をよく連れてきたな」と言ったとか(笑)。“2割8分、30盗塁してくれればいいや”と言われていたのが、まあ打つわ、守るわ、走るわで。アメリカ人の野球通でも「イチローはベーブ・ルース以前の野球の楽しさというものに戻してくれた」と言い出した。

 そんなイチローに刺激されて、数多くの選手が行くようになった。記憶に遺るのは松井秀喜でしょうか。ワールドシリーズでMVPもとりました。でも、ピッチャーは日本で活躍した選手は通用するけれど、野手はなかなか難しい。特に内野ですね。松井稼頭央なんて、ずいぶん叩かれましたね。

大谷翔平はこれからも、無人の野をいくのでは

 イチローや松井秀喜以降、日本から行った野手がMLBでほとんど活躍しなかったのはなぜか、感じたことはあるのだろうか。さらに大谷翔平についてはどのように感じているのだろうか。

池井:日本野球の投手はコントロール重視で、アウトコース、インコースをついてくる。しかしMLBの投手のボールはムーブしてきます。これに対抗するには、イチローほどのバットコントロールの持ち主か、ずばぬけたパワーの持ち主でなければ通用しないということでしょうね。

 それからセイバーメトリクスの導入で、アメリカの野球は変わりました。もう選手によって守備位置が全部変わっちゃう。ショートがライトの前まで来ちゃうとかですね。そして今は「フライボール革命」でアッパースイング全盛でしょう。

 そんな中で、大谷翔平がたったひとり――鈴木誠也も今年行きますけれども――おそらくこれからも、無人の野をいくことになるのではないかと思います。

 大谷翔平は、まず並外れた体力を持っています。日本人の場合、昔は190cmを超えると動きが鈍くなったりしましたが、彼は本当に均整がとれていて、しかも日本時代から比べると2まわり以上大きくなっているんですね。

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