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松山商「奇跡のバックホーム」から26年…ライト矢野&澤田監督がいま明かす“甲子園決勝までのドラマ”「最後まで、スタメンを誰にするか悩ませた張本人」

posted2022/03/24 17:02

 
松山商「奇跡のバックホーム」から26年…ライト矢野&澤田監督がいま明かす“甲子園決勝までのドラマ”「最後まで、スタメンを誰にするか悩ませた張本人」<Number Web> photograph by KYODO

1996年夏の甲子園、のちのちまで「奇跡のバックホーム」と語り継がれるスーパープレーが生まれた。大返球で三塁走者を刺したのは矢野勝嗣(松山商)だ

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元永知宏

元永知宏Tomohiro Motonaga

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1996年、夏の甲子園決勝。のちに「奇跡のバックホーム」として語り継がれるビッグプレーが生まれた。主役となった背番号9・矢野勝嗣さん(43)と、“鬼”といわれた松山商・澤田勝彦監督(当時)。2人が振り返る舞台裏とは――(全2回の前編/後編へ)

 100年以上の歴史を誇る高校野球では、数え切れないほどのヒーローが生まれてきた。しかし、エースでも四番打者でもないのに、高校野球の歴史を変えるプレーをした選手がいる。1996年夏の甲子園、松山商業(愛媛)と熊本工業(熊本)との決勝戦――10回裏ワンアウトからライトのポジションに入った外野手が、のちのちまで「奇跡のバックホーム」と語り継がれるスーパープレーを見せた。ダイレクトの大返球で三塁走者を刺した矢野勝嗣だ。

 名門・松山商業の背番号9をつけてはいたものの、エースが降板して外野に回るたびに押し出されてベンチに戻る「半レギュラー」の位置づけ。決勝戦ではスターティングメンバーから外れてベンチスタートだった。

奇跡の大遠投→次の回でツーベース

 伝統校同士の決勝戦。3対3で迎えた10回裏。ワンアウト三塁、1点を取られれば負けるという場面で、澤田勝彦監督は続くふたりとの勝負を避ける敬遠策を指示。ここでライトに起用されたのが矢野だった。

 熊本工業の3番打者が打った打球はライトへの飛球に。三塁走者がタッチアップをしてホームを踏めばサヨナラ……。テレビ実況を行ったアナウンサーが「いった! これは文句なし」と叫んだほどの深い打球だった。

 矢野は一度下がってからフライを捕り、ホームにダイレクトで投げ込む。力強い送球を受けた捕手のミットが三塁走者を叩いた。ピンチを救う大遠投が日本中を驚かせた。

 矢野は11回表の打席に立ってツーベース。それをきっかけに3点をあげた松山商業がそのまま逃げ切り、27年ぶり5度目の全国優勝を果たした。

 あれから四半世紀が過ぎても、「奇跡のバックホーム」が色褪せることはない。

 矢野は当時をこう振り返る。

【次ページ】 かつての強豪=怖い監督、厳しい上下関係…

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