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衝撃的だった“ロシアのパラ参加容認”…急展開で“除外”を決定づけたのは「ラトビア代表のボイコット宣言」だった
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byAFLO
posted2022/03/11 17:00
「オリンピック休戦協定」を無視してウクライナ侵攻を続けるロシア。一時はパラ五輪への出場も容認されたが、一転して除外された背景には「ラトビア代表によるボイコット宣言」があった
ロシア、ベラルーシと国境を接しているラトビアにとって、ウクライナの状況は他人事ではない。だからこそ「戦争に反対する」「選手も声を上げるべき」という声明が深く響いた。
また、彼らがボイコットを決断した理由には、心情的な部分以外にも、安全面での懸念も含まれている。当該2カ国の選手とウクライナ代表が、試合はもちろん、選手村でも遭遇する可能性もあり、互いの安全が守られるのかも不透明だった。事実、ラトビア代表によると、ロシア、ベラルーシの選手たちによって、選手村や練習場ではピリピリした雰囲気になることもあったという。
ラトビアのボイコット宣言が決定を覆した
ラトビアが声を上げると、同じ車いすカーリングで対戦予定だった韓国も試合放棄を示唆したほか、カナダ、米国をはじめとした多くのパラリンピック委員会が「2カ国の出場許可は遺憾」という声明を発表し、IPCに圧をかけた。
オリンピックのフィギュアスケートで15歳のカミラ・ワリエワのドーピング問題があった際も、「ボイコットして抗議するべき」という意見もちらほら出たが、個人競技において数名がボイコットしても大きく取り上げられない可能性もあり、そういった強硬手段に訴えることは難しかった。しかし団体競技でロシア以外のチームが試合放棄をしたら、そもそも大会自体が成立しなくなる。団体競技の選手たちが声を上げたことで、IPCや組織委員会も受け入れざるを得なかったのだろう。
パラリンピックという夢の舞台を諦めることはないだろう、政治的な発言はしないだろう、とIPCと組織委員会が選手たちをみくびっていたようにも思う。
北京入りすら“奇跡”…それでもウクライナ代表は大活躍
そのウクライナ代表は、ロシアによる爆撃で国内の空港が破壊されるなど、北京入り自体も困難を極めた。ウクライナパラリンピック委員会のバレリー・スシケビッチ会長自身もバスで二晩を過ごすなど、生命を守ることで精一杯だったという。
スシケビッチ会長が記者会見で「パラリンピックにたどり着けたのは奇跡だ」と表現したように、想像を絶する道のりだったことに違いない。
ウクライナ代表選手は4日、開会式の場所に移動する前に、選手村で「No War」と書いたプラカードを掲げ、戦争を止めるように訴えた。涙ながらに訴える選手たちを他国の代表選手たちが抱きしめる姿は、動画で世界中に伝えられた。
開幕からウクライナ代表はバイアスロンの男子視覚障害、女子立位でメダルを独占。金メダル8個を含む、23個のメダルを獲得するなど(3月11日時点)好成績を収めている。