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「大谷選手という存在はマンガにしづらい」『ダイヤのA』作者に聞く“大谷翔平はフィクションを超えたのか?”
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byGetty Images
posted2022/03/17 17:00
今年もメジャーリーグでの活躍が期待される大谷翔平。大谷が「影響を受けた1冊」と公言しているのが人気少年マンガ『ダイヤのA』である
ただ、大谷選手が誰も想像できなかったような活躍をしてくれたことで、漫画家として描きやすくなった部分もあります。『ダイヤのA』では轟雷市という怪物スラッガーが登場します。以前は「轟雷市みたいに打ちまくる選手なんて実在しないでしょ」なんて言われていたんですが、大谷選手が登場して以降はそんな声も少なくなったように感じます。その意味でも、大谷選手には行けるところまで行ってほしいですね。そうしたら、野球における「リアル」もどんどん広がってぼくたち漫画家はなにを描いても許されるようになりますから。
漫画にしにくいけど「ものすごく映える選手」
先ほど、大谷選手はマンガのキャラクターにしづらいと言いましたが、彼のピッチングやバッティングのフォームは作画をする上で非常に参考にしています。
例えば主人公、沢村と同じ青道高校でエースの座を争う降谷暁。彼を描き始めたときは、藤川(球児)投手や澤村(拓一)投手のフォームを参考にしていました。でも、最近は大谷選手も混ざっています。以前は投げる直前、もう少しテイクバックを深めに描いていたんです。ところが「いまのピッチャーはケガを防ぐためテイクバックは浅めですよ」と耳にする機会があり、降谷を描くときはテイクバックが浅めでかつカッコいい大谷選手のフォームも取り入れています。
打者では轟雷市の構えにも途中から大谷選手が混ざっています。彼が作中で初めて登場したときはまだ大谷選手はプロ入りしていなかったので、雷市のフォームはよく見たら初期と現在では少し違います。現実に影響されて作画が変わった例ですね。
これは投打両方に言えることなんですが、大谷選手の構えは力感があって、マンガとしてものすごく映えるんです。絵になる選手だし絵に描きたいなと心から思える対象です。
大谷選手がよくマンガを超えたと表現されていますけど悔しいと思ったことはないですね。ぼくが大谷選手をマンガのキャラクターのように見ていますから。
ファイターズに入団したときも、メジャーに行ったときも、彼は「二刀流なんて無理だ」「どっちか選べ」と散々言われたじゃないですか。
でもぼくは、二刀流をやってほしいと思って応援していました。周りにダメだ、できないと言われる中で反発してやってのけるってまさにマンガ的ですし、実際メジャーでもリスペクトされるんですから、痛快ですよね。
「ぼくなら“高校生らしい大谷選手”を描いてみたい」
ぼくは6年前、「週刊少年マガジン」誌上でメジャーに行く前の大谷選手と対談したことがあります。そのときの話で印象深かったのが、160kmを初めて投げたときの高校時代のエピソードです。