Number ExBACK NUMBER
大本命・峰竜太はなぜ転覆したのか? 歴代ワースト“41億円”が返還されたボートレースの祭典「賞金王決定戦」を現役記者が解説
text by
山内翔太Shota Yamauchi
photograph byJapan Motor Boat Racing Association
posted2021/12/22 17:00
大クラッシュが発生する直前、グランプリ優勝戦の第1ターンマーク。青の4号艇・瓜生正義の「ツケマイ」を受けて、白の1号艇・峰竜太はギリギリの旋回を試みたが……
1号艇の峰選手からは、瓜生選手の4号艇が一気にまくってきた瞬間が見えていたはずです。峰選手はなんとか勝負できる位置にボートを残せるように、通常よりも少し早いタイミングでターンを始めています。いつものタイミングで回っていては飲み込まれる、と感じてのとっさの判断でしょう。
あのクラスのレーサーが凡ミスでターンマークにぶつけることはほぼないのですが、峰選手はこの大一番で、どれだけ自分がファンの期待を集めているか痛いほど理解していた。なんとしてもその期待に応えようとしたために、無理なターンをしてしまったのではないでしょうか。
「勝つためのターン」が多重クラッシュを生んだ
ターンマークと接触した峰選手が転覆したことで、2号艇の丸野一樹選手、3号艇の平本真之選手、6号艇の毒島誠選手が次々に巻き込まれる大クラッシュになってしまいました。この後続の動きも「グランプリの優勝戦」という特殊な舞台であることが影響しているように思います。直後にいた丸野選手、平本選手が回避するのは難しかったかもしれませんが、なぜ6号艇の毒島選手まで巻き込まれたのか。
それは、「各艇が勝つために最高のターンを決めたから」だと個人的には考えています。このクラスの選手たちは、事故を避ける能力も非常に高い。にも関わらず4艇が転覆というのは、グランプリの優勝戦でなければ起こりえなかった事故ではないか、と。選手たちにとって、賞金王というのはそれだけ特別なものです。
賞金の1億円が云々というよりも、純粋に名誉のため、最高峰のグランプリに優勝したいという気持ちが、全選手を“攻めの意識”にさせた。無事故で完走することが最低限の責務であることは重々承知しつつも、最大限のパフォーマンスを出し切ろうとした結果、1マークの内側で4艇が巻き込まれるアクシデントになってしまった。