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大本命・峰竜太はなぜ転覆したのか? 歴代ワースト“41億円”が返還されたボートレースの祭典「賞金王決定戦」を現役記者が解説
text by
山内翔太Shota Yamauchi
photograph byJapan Motor Boat Racing Association
posted2021/12/22 17:00
大クラッシュが発生する直前、グランプリ優勝戦の第1ターンマーク。青の4号艇・瓜生正義の「ツケマイ」を受けて、白の1号艇・峰竜太はギリギリの旋回を試みたが……
不幸中の幸いは負傷者が出なかったこと
それにしても、瓜生選手のツケマイは見事でした。ターンを始める瞬間の初動から進路、スピードもすべてが完璧で、「こんなに綺麗に決まるものなのか」と感嘆してしまいました。ギリギリを攻めているので、内側に押し込まれた相手は為す術もない。結果として、峰選手のターンの行き場がなくなりました。あれほどの選手がターンマークに激突したのは、強烈なまくりを浴びてスペースがなくなった影響も大きいですね。そこをクリーンに攻めきった瓜生選手がとにかく凄かった。
瓜生選手はボートレース界きっての人格者なんですよ。選手、関係者、メディアの人間も含めて、彼のことを嫌っている人は見たことがありません。後輩思いですし、どんな相手にもリスペクトを持って接する選手です。45歳という年齢で、今まさにピークを迎えている30代の峰選手や毒島選手に勢いで劣る部分もありますが、ここ一番での勝負強さはピカイチ。今回も実力で峰選手をねじ伏せた。グランプリは2016年に続く2勝目、SGタイトルはこれで11勝目ですが、本当に「いつ衰えるんだろう」という印象ですね。
2着に入った白井英治選手は瓜生選手と同世代のレーサーで、たいへんな努力家として知られています。SGでの優勝は2回ですが、10回くらいは勝っていてもおかしくない実力の持ち主です。「次こそグランプリを獲ってほしい」と願っているボートレースファンも少なくないと思います。
事故を起こしてしまった峰選手も、「来年のグランプリを優勝するのが償いになる」と考えているんじゃないでしょうか。41億円という“返還記録”の当事者にはなってしまいましたが、ファンの支持は変わりませんし、ボートレース業界への貢献度も計り知れない。来年も峰竜太らしい走りを見せてくれることに期待します。
今回のグランプリ優勝戦は、安全を第一に考えているトップの6選手全員が、純粋に強い思いを抱いて勝とうとしたレース。結果は残念なものになりましたが、選手を責めることはできません。むしろあれだけのクラッシュがあって、誰も大きな怪我をすることなく無事に帰ってこられたことがなによりですし、本当に不幸中の幸いだったと思います。
(構成/曹宇鉉)
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