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《故意か、偶然か》ボクシングで“バッティング”はなぜ起きる? 名伯楽が語る対処法とは「相手の頭をこちらの頭で迎え撃つことも」 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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posted2021/10/31 11:02

《故意か、偶然か》ボクシングで“バッティング”はなぜ起きる? 名伯楽が語る対処法とは「相手の頭をこちらの頭で迎え撃つことも」<Number Web> photograph by KYODO

頭をつけ、死力を尽くしてパンチを打ち合う寺地拳四朗(左)と矢吹正道。必然的にバッティングが起きやすい距離だ

「(頭に比べて)当てやすい相手の胸や肩にパンチを打つ。これは頭から突進してくる選手を止める一つの方法です。頭の低い選手に懐に入られたら1、2回、ウィービングかブロッキングでパンチを防いで、すぐにヒジで相手の首根っこを押さえるか、脇の下に相手の頭を入れてしまう。そして上からグッと押さえつける。手で押さえるだけじゃなくて少しヒザを曲げると全体重がかかる。これ、乗っかられた相手はけっこう嫌ですよ。

 他にも左フックをダブルで打って相手の左側に回り込むとかいろいろあるんですけど、大事なのは試合で慌てないように対処法を練習しておくことです。ボクシングで教えることってパンチの打ち方と避け方だけじゃないんです。体で押し合うこともありますから、相撲を教えることだってあります」

 頭から攻めていったとしても、レフェリーが反則負けを宣告するのは余程のこと。せいぜい注意で、かなりしつこく繰り返さなければ減点もない。であれば「反則じゃないか!」とイライラ、カリカリするのはむしろ相手の思うつぼ。熱くならず、冷静に、時にはしたたかに反則には反則で対応する。それが勝利に近づく“大人の対応”というものなのだろう。

出血時には“セコンド力”が試される

 さて、バッティングの怖いところはボクシングが崩されるだけでなく、顔や頭が切れて出血してしまうことである。出血がひどければ試合は止められてしまうから、選手はどうしても心理的に追い込まれる。出血は勝敗を左右する大きなポイントになり得るのだ。

 田中トレーナーの話はなかなか興味深い。

「出血で試合を止められそうな状況になったとしましょう。序盤で試合が終われば負傷ドローで、試合が規定のラウンドに達すれば途中までの採点で勝敗は決まります。ということは序盤でこちらが劣勢なら早く終わってドローになったらラッキーです。だからレフェリーがコーナーに来たときに『この傷はかなり厳しいな……』と目で訴えたり、逆にリードしていてもう少し続けたい場合は『まったく問題ありません』という涼しい顔したりするんです。出血したときはそういう駆け引きもあるんですよ。

 傷の深さを見極めて、レフェリーがどのタイミングで試合を止めるのかを予想することも大事です。それまでの採点も考えて、足を使って様子を見るのか、思い切って攻めさせるのかを判断する。偶然のバッティングによる出血か、パンチによる出血かによっても違ってきます。選手はカットすると慌てがちですから。セコンドは状況を冷静に判断して指示を出す力が求められますね」

 バッティングになっても構わないと考え、頭を前に出してダーティーに仕掛けてくる選手がいる。そうは問屋が卸さないとさまざまな対処法を駆使し、ゲームをコントロールしようとする選手がいる。そしてカットした選手に止血を施し、戦況や出血量に応じて適切な戦略を短い時間で導き出すセコンドがいる。勝敗を左右する重要なファクターであるバッティング。なかなか奥が深い。

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