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《故意か、偶然か》ボクシングで“バッティング”はなぜ起きる? 名伯楽が語る対処法とは「相手の頭をこちらの頭で迎え撃つことも」

posted2021/10/31 11:02

 
《故意か、偶然か》ボクシングで“バッティング”はなぜ起きる? 名伯楽が語る対処法とは「相手の頭をこちらの頭で迎え撃つことも」<Number Web> photograph by KYODO

頭をつけ、死力を尽くしてパンチを打ち合う寺地拳四朗(左)と矢吹正道。必然的にバッティングが起きやすい距離だ

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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 9月22日、京都で開催されたWBC世界ライト・フライ級タイトルマッチを巡り、頭を頭にぶつける反則行為であるバッティングが話題になっている。挑戦者の矢吹正道(緑)がV8王者の寺地拳四朗(BMB)を10回TKOで下した一戦で、寺地サイドが9回に出血したシーンを「故意のバッティング」として日本ボクシングコミッション(JBC)に質問状を提出。JBCおよび報告を受けたWBCは故意のバッティングとは判断しなかったようだが、そもそもバッティングとは何なのか? 識者の話からバッティングについて考えてみたい。

競技の性質上避けがたいバッティング

 最初にご登場願ったのは神奈川渥美ジムの本田秀伸会長。本田会長は元日本ライト・フライ級王者で、フライ級とスーパー・フライ級で世界挑戦した経験を持つ。卓越した技術で相手を翻弄し、“ディフェンスマスター”の異名もついたテクニシャンだ。まずはバッティングがどのような場面で起きるのか聞いてみた。

「バッティングが起きるのは、まずお互いが攻撃するときです。パンチを出すときは1歩踏み込みますから、両者が同時に踏み込めば2歩分になります。それで距離が近くなりすぎて頭と頭がぶつかります。あとは接近戦ですね。至近距離でディフェンスする側がパンチを避けようと頭を振って、パンチを打ち下ろす攻撃側の頭とかみ合ってしまうとバッティングになります。

 ボクシングはいかに相手にパンチを当てるか、いかにパンチをもらわないかという競技で、そのためにいいポジションを奪い合います。ポジションとは立ち位置だけではなく、標的である頭の位置も関係してきます。こうしたポジションの奪い合いの中でもバッティングは生まれます」

 実際にバッティングが発生するのは、世界タイトルマッチのようなトップレベルの試合よりも、まだ技術レベルの低い4回戦や6回戦に多いという。トレーナーのMVPともいえるエディ・タウンゼント賞を受賞したことのある一力ジムの名伯楽、田中栄民トレーナーに説明してもらおう。

「キャリアの浅い選手は焦って打とうとするあまり、ワンツーならジャブを打ってからストレートを打つとき前のめりになってパンチよりも頭が先に出てしまうことがけっこうあります。相手のパンチをもらうのが怖いから頭が下がるという選手、体ができていなくて上体が流れてしまうというケースもあるでしょう。偶然が多いとは思いますけど、中にはわざと嫌がらせでやる選手もいますね」

【次ページ】 バッティングもひとつのテクニック?

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