オリンピックへの道BACK NUMBER
「こんなことやってる場合じゃない、と」五輪を目指した“看護師ボクサー”津端ありさ(28)が感じた葛藤…開会式参加で芽生えた“ある思い”とは?
posted2021/09/17 17:02
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Shino Seki
看護師として勤務しながら競技を続け、東京五輪を目指していた津端ありさ。その過程には、アスリートとしての夢と、医療従事者としての責任との間で揺れる思いがあった。開会式のパフォーマーとして国立競技場に立った彼女の胸に込み上げてきた本心とは。〈全2回の2回目/#1はこちら〉
新型コロナウイルス感染拡大に世界が揺れた2020年。
看護師として医療に従事しつつボクシングを始め、日本代表に名を連ねるまでになった津端ありさにとって、その影響は両面で降りかかることになった。
東京五輪出場を目指して臨んだ2021年3月のアジア・オセアニア予選では結果を残せず、出場権獲得はならなかった。出場のための最後の機会となる5月の最終予選を目指しているさなか、大会の延期が決まった。
医療現場の逼迫…それでも出した「結論」
勤務する病院はコロナに対応しているわけではなかった。それでも無縁ではいられなかった。最終予選の延期とともにオリンピックも1年延期となる中、医療の現場は熾烈を極めた。
「仕事とボクシングを両立しながらやっていて疲れてくると『オリンピックなんてほんとうにできるのかな』と考えたりしましたし、医療の現場を見ていて『こんなことやっている場合じゃないよな』と思うこともありました」
オリンピックを中止に、という声も強まっていった。
「それも分かるところは分かります。ただ自分は、仕事は仕事できちんとやって、ボクシングはボクシングできちんとやる、と割り切っていたと思います」
延期された最終予選は2021年6月に開催されることになっていた。医療に従事しボクシングの練習に励む日々が続いた。年が変わろうとする時期、「あと半年だ」と感じると、ある思いが湧き起こった。
「100%の努力が出来ているのかな、もっとできるんじゃないか」
考えた末、ボクシングに懸けたいと結論を出し、上司に「やめたい」と伝えた。