スポーツ物見遊山BACK NUMBER
宇野ヘディング事件&エモやん「ベンチがアホやから」から40年…後楽園と甲子園で起きた“2つの事件”が「巨人至上主義」の風潮を変えた?
text by
高木圭介Keisuke Takagi
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2021/08/26 11:04
1981年巨人対中日(後楽園球場)、7回裏に捕球を取り損ない、ヘディングしてしまう中日・宇野勝。左には驚きの表情を覗かせる大島康徳の姿も
劇中ではカタカナ表記とはいえ、田淵幸一(タブチ)や安田猛(ヤスダ)、広岡達朗(ヒロオカ)監督らが繰り広げる人間模様は、野球を見て笑いのネタにするという文化(馬鹿にするのとはまた違う)を生み、また、人気不人気関係なく、さまざまな球団の人間模様を作者の創作含めて面白おかしく描くことで、それまで巨人至上主義だったプロ野球人気に大きくクサビを打ち込んだとも言える。
田淵(実際にあんなに太ってはいない)や安田をはじめ、面白おかしく描写されたプロ野球人の中には、腹を立てた人もいたことだろう。だが、あの漫画を読んだ小中学生が、なかなかテレビでは見られない巨人以外の選手にも注目し始め、親しみにも似た感情を抱きつつ、プロ野球に熱中することになった影響は大きかった。
またエモやんこと、江本は初期の阪神タイガース時代のエピソードにタブチの同僚として、口ヒゲをたくわえた姿で頻繁に登場していたこともあり、首脳陣批判→34歳での引退は当時の小学生にとっても衝撃的であった。
エモやん本は200万部超、ヘディングは長寿番組の契機に
そんな江本が翌82年1月、つい最近まで現役だった選手しか知り得ない球界裏事情などを面白おかしく書き記した『抱腹絶倒!プロ野球を10倍楽しく見る方法』(KKベストセラーズ)を出版し、これが200万部超の大ベストセラーに。同年9月には続編の『痛快無類!プロ野球を20倍楽しく見る方法』も発売され、こちらも大ヒット。これらを原作に、タブチくんとのコラボで映画も2本作られるに至り、これまでにないタイプの野球解説者、タレントとして成功するだけでなく、タイトル通り「プロ野球の楽しみ方」に大きな影響を与えることに。
宇野ヘディング事件は、『プロ野球ニュース』(フジテレビ)の珍プレーコーナーで度々、リピート放送され続け、ついには83年から特番として佐々木信也の司会、みのもんたのナレーションで『プロ野球 珍プレー・好プレー大賞』(当初は金曜ファミリーワイド枠で放送)が独立した番組として放送されるに至り、2005年まで放送が続く人気シリーズとなった。この番組が誕生したきっかけこそが、宇野ヘディング事件だったと言い伝えられる。
40年前の8月26日、東西で起きた「事件」は、こうしてプロ野球の歴史に大きな影響を与えたのである。