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リオでは靭帯断裂、昨年は首の怪我…苦しんだテコンドー山田美諭“日本人初の快挙”の陰に大東文化の名将と「イチローも師事した」名トレーナー
posted2021/07/31 11:03
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph by
Getty Images
7月24日、テコンドーの女子49kg級代表の山田美諭(城北信用金庫)は5位に入賞した。過去テコンドーの日本代表でのメダル獲得は2000年のシドニー・オリンピックで女子67kg級の岡本依子の銅メダルのみ。その後の入賞歴は、2012年のロンドン・オリンピックで濱田真由の5位、笠原江梨香の7位という記録だけが残っている。そのときの濱田は2回戦で敗北を喫したが、その後敗者復活戦を勝ち上がっての入賞だった。
今回の山田は、テコンドーの強豪国として知られる台湾と韓国の選手から勝利を奪ったうえでの準決勝進出だった。シドニーのときの岡本は2試合目の予選で敗北を喫して敗者復活戦に回っている。つまり日本代表としての準決勝進出は史上初めてという快挙だった。
山田の師で大東文化大テコンドー部の金井洋監督は愛弟子に成長を感じたという。
「私が現役の頃、世界選手権やアジア選手権などの国際大会になると、(競技の発祥国である)韓国が圧倒的に強かった。今回オリンピックという最高の舞台で、台湾と韓国を破って4強に入る。これは日本テコンドー界にとって歴史的な出来事だったと思います」
事前の対策で、相手の特徴を掴んでいた
では、なぜ山田は準決勝まで進出することができたのか。それにはオリンピックが対策を立てやすい大会であることが挙げられる。組み合わせはランキングによって決められる。国によっては大陸予選で勝ち抜いた、あるいはオリンピックランキングで出場枠を勝ち得た選手ではなく、別の選手を出してくるケースもあるが、だいたい予想は立てられる。
初戦となった蘇栢亜(台湾)との2回戦での勝因として金井監督は“我慢”をあげた。「あの台湾の選手は非常に分かりやすい闘い方をしてくるので、分析することも容易だった」。
試合はクロスゲームだったが、ポイントは蘇栢亜がリードする展開に。最終(第3)ラウンド残り時間1分を切っても、山田は8-9とリードを許していた。それも、金井監督は想定の範囲内だったと言い切る。
「これまでの山田だったら、ポイント差があったら、焦って前に行ってしまい、点数をさらに広げられていたと思う」
蘇栢亜は階級を下げて49kg級に出場していた選手だったので、「パワーがある」という声もあったが、山田サイドの予測は逆だった。「減量に苦しんでいると思ったので、逆にパワーはなかったと思う」(金井監督)。
結果、残り時間が40秒を切ったところで、山田が10-9と逆転。僅差の勝負を制した。試合も終盤になれば、対戦相手のスタミナや集中力が切れると信じて闘っていたのだろうか。途中までは無理をせず、あえて我慢をする戦法は他の打撃格闘技にもある。