オリンピックへの道BACK NUMBER
「野獣」と呼ばれた松本薫はなぜ“名解説者”になったのか 「ほんとうの天然だったら、オリンピックチャンピオンになれないです」
posted2021/08/03 17:02
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
JMPA
オリンピックは、実施されている競技にとって、大きな場だ。4年に一度の舞台に懸ける選手たちにとっては当然のことながら、競技そのものの今後にも影響を及ぼす。ふだんはあまり関心が集まらなくても、オリンピックは目を惹きつける機会になり、そこで競技の認知や関心を高めることが、競技の発展にも寄与する可能性がある。
試合の実況、あるいは試合を終えたあとのスタジオでの解説者もまた、大きな役割を担っている。解説者の解説で、競技の理解が深まったり、関心を持つ人が増えたりすることは多い。例えば2006年のトリノ五輪でカーリングが大きな関心を集めた要因の1つに、解説者の的確な分析や展開の説明、加えてテンポや熱のこもった語り口があった。
今大会でも、解説者の存在がクローズアップされ、そこで競技に関心を抱くケースが少なくない。
柔道では、松本薫の解説の様子が注目を集め、それをきっかけに柔道を観た人がいることも伝えられている。
「野獣」を想起させた現役時代
2012年ロンドン五輪女子57kg級で金メダル、2016年リオデジャネイロ五輪では銅メダルを獲得。結婚、出産を経て東京五輪出場を目指し競技を再開したが、2019年2月に引退を正式に発表。今大会は解説者として、大会にあたっている。
柔道関係者が「ポイントはおさえている」と話すように競技の土台があって、その上に選手へのインタビュー模様、選手の心情に重ねた言葉が合わさって話題となっている。
そうした状況を伝え聞くにつれ、いくつか思い起こすこともあった。
現役時代、松本は「野獣」という形容がしばしばなされた。試合での眼差しを含め全身で表現する激しい闘志、試合の中での気迫が「野獣」を想起させた。
また、ときに「天然」とも言われた。質問に対する思いがけない答えや内容がそう思わせた。