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リオでは靭帯断裂、昨年は首の怪我…苦しんだテコンドー山田美諭“日本人初の快挙”の陰に大東文化の名将と「イチローも師事した」名トレーナー
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byGetty Images
posted2021/07/31 11:03
日本代表として初めて準決勝に進出したテコンドーの山田美諭。大健闘を見せた。
テコンドー宗主国・韓国の選手に圧勝
続く準々決勝ではシム・ジェヨン(韓国)と対戦した。実はシムとは過去に2度闘っている。初対決時にはシムに軍配が上がったが、2年前のワールドグランプリで対戦したときには山田が圧勝している。
試合は山田が終始リードする形で進み、終わってみれば16-7というスコアでの快勝だった。会場近くのホテルでモニターを通して観戦していたという金井監督は「勝つべくして勝った一戦だった」と振り返る。
「映像を観る限り、韓国の選手は山田に相当の苦手意識を持っていたと思います。そもそも動きから自信が感じられない。テコンドー宗主国の威信とプライドをかけて勝ちに来るはずだと警戒していたのですが」
結局、今大会でテコンドーの韓国代表が獲得したメダルは銀メダル1、銅メダル2。金メダルはひとつも獲れなかった。これはテコンドーが国際スポーツになった証左なのだろうか。
大一番で“一度も出していない”テクニックも繰り出した
準決勝ではリオ銅メダリストのパニパク・ウォンパタナキット(タイ)と対戦したが、34-12で敗れ決勝進出の夢はついえた。それでも、金井監督は「山田はその場その場の判断能力が上がっていた」と振り返る。
「今までの山田だったら、第3ラウンドにもっと突き放されて終わったでしょう」
クリーンヒットこそしなかったが、準々決勝までは一度も出していない“ジョーカー”というべきテクニックも繰り出した。
“リバース”と呼ばれるスピン系の蹴りだ。テコンドーでは胴への回転蹴りは4点、頭部への回転蹴りが5点とポイントが高い。連続して決まると、ちょっとした点数差ならばすぐ縮まる。それもテコンドーの醍醐味のひとつといえる。山田がこの蹴りを放つと、パニパクは即座に闘い方を安全策に切り換えた。結局、パニパクは山田を破った勢いで決勝戦も制し、タイでは史上10人目の五輪金メダリストとなった。母国では国民的英雄になった金メダリストを相手に、山田は爪痕を残したのではないだろうか。
もうひとつ書き残しておきたいことがある。山田といえば、リオデジャネイロ五輪の最終選考会で右膝じん帯を断裂するという重傷を負い、土壇場のところでリオ行きの夢を逃してしまったエピソードが有名だ。