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「今度こそ表彰台」「今度こそ初優勝」MotoGP4年目の中上貴晶が、奮闘およばず表彰台に届かない理由とは
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2021/07/17 17:00
現在、ポイントランキング11位の中上。今季の最高位は4位。MotoGPクラス4年目となるが、まだ表彰台はない
実を言えば、先日のオランダGPは、「今日は表彰台に立てるだろう」と大いに期待した。それがレース中盤にあれよあれよという間にポジションを落とした。その要因は、ストレートの速さを武器に中上以下に蓋をする格好だったバニャイアの存在が2位以下のグループを混戦にしたこと。最終的に2位になったビニャーレスは、バニャイアと中上のバトルを後ろで見る形となったが、中盤、中上のミスをついて前に出る。同時にバニャイアはコース外走行によるロングラップペナルティでポジションを落とした。
2位を走りながら後続に蓋をする形だったバニャイアが姿を消したことで、ビニャーレスの後方でイライラしていたライバルたちも一気にペースを上げて中上にアタックする。バニャイアとの戦いにエネルギーを費やしていた中上には、後続を抑える力は残っていなかった。
ハイレベルがゆえの妥協
中上は、中高速コーナーではマルケスを凌ぐ速さがあると言われる一方、勝負所となるシケインやヘアピンのブレーキングにウイークポイントを抱える。いまのMotoGPは共通ECUの採用などでマシンの性能差が縮まり「ブレーキを制する者がチャンピオンになる」と言っても過言ではない。その勝負所でのブレーキングで中上が強くなれればリザルトも大きく変わるのだろうが、これがバイクの難しいところで、ウイークポイントを改善しようとすれば中高速コーナーでの良さを失うことになる。
低速も中高速コーナーも最高というバランスはなかなか達成できないし、どこかのパートで妥協しなくてはいけない。中上に求められるとすれば、「すべてのパートで自分の走りをしたいという、ないものねだりとの決別」ということになるが、昨年、そして今年の妥協点は、タイヤの選択をソフト側傾向にして序盤にトップグループに加わるという作戦だった。今回もトップグループを走った中では唯一ソフト側のタイヤをチョイスしていた。
去年までは、予選で一発のタイムを出せたことでグリッドも良く、その作戦も効果があったが、今年のホンダ勢はリアのグリップ不足に苦しみ、予選で一発のタイムを出せず予選グリッドも中団以下になることが多い。そのためソフト側のタイヤで逃げ切る作戦もうまくいかず、フラストレーションをためるレースが多かった。