オリンピックへの道BACK NUMBER
「器具から声が聞こえるように」内村航平が新たな境地で迎える五輪選考レース最終戦【全日本種目別選手権】
posted2021/05/30 17:02
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
AFLO
細い糸をたぐるようにして進み、そしてもう少しで目標を達成しようとしている。
体操の内村航平は、東京五輪の代表入りまでもう少しのところにたどり着いた。
内村が思い切った選択をしたのは昨年のこと。いっこうに和らぐことのない肩の痛みの影響から、個人総合をやめて鉄棒でオリンピックを目指すことを決めたのだ。以来、鉄棒に集中し、取り組んできた。
それは大会で成果となって表れている。
今年4月の全日本選手権の決勝では最初にH難度の大技「ブレトシュナイダー」を決めると、離れ技「コールマン」では「狙っていい位置で持つことができました」と手ごたえを語る出来で成功。15.466点の高得点をマークする。続く5月のNHK杯でも15.333点で2位以下を大きく引き離してトップで終えた。
参考としてあげれば、2019年の世界選手権の鉄棒で優勝したアルトゥール・マリアーノの得点は14.900点。それもあり、内村の15点台は注目を集めることになった。
内村自身は、決して満足はしていないことを言葉で示した。
「60点」の演技に得た確かな手応え
全日本後は「100点満点中、60点くらい」と厳しく自己採点し、NHK杯のあとも「自分の満足できる演技を追求していかなきゃいけないかな」と語っている。
その語り口は厳しかったが、内村自身、技に手ごたえを得た部分もあり、高いパフォーマンスとともに存在感を示した。
そして今、全日本種目別選手権(6月5・6日)を目前に控える。この大会を経て、代表が決定することになる。
内村が争うのは個人枠の1枠。これは全日本選手権、NHK杯、全日本種目別選手権の3大会の結果によって決まる。日本体操協会によって作成された独自の世界ランキングをもとにして、さまざまな条件のもとでポイントが付与され、総ポイントの最上位選手が代表の切符を得る。
条件が多岐にわたるのは、対象となるのが鉄棒だけではないことから生じている。それぞれの種目のスペシャリストの中からの1人を選ぶため、異なる種目を比較する必要があり、熾烈な競争が続いてきた。
NHK杯までを終えて、暫定ポイントでトップに立つのは、鉄棒の内村と跳馬の米倉英信。両者ともに110ポイントで、3位以下の選手も可能性を残してはいるが、トップの2人とは現時点で50ポイント以上の差があることを考えれば、内村と米倉の争いになる可能性が高い。当の内村自身は、全日本種目別を残すだけになった時点でのオリンピックへの距離について訊ねられ、こう答えている。