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「器具から声が聞こえるように」内村航平が新たな境地で迎える五輪選考レース最終戦【全日本種目別選手権】
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2021/05/30 17:02
5月16日、NHK杯に出場した内村。今年3月から新しく所属契約を交わしたジョイカルのロゴが入ったウェアを身にまとう
「ぜんぜん考えていないです。考えている間もなく自分の演技を振り返っているというか、全然納得できないので。オリンピックがどうとかより、早く自分の満足いく演技を国内で出しておきたいという気持ちが強いです」
全日本選手権でも、NHK杯でも一貫していたのは、自身の納得のいく、満足のいく体操をしたい、そこに最大の目標があるという姿勢だった。
そこには、まだ先へ進んでいける、体操をもっと極められるという思いもあるのではないか、そう考えているのではないかと思わせる言葉もあった。
全日本選手権を終えて、このような話をしている。
「器具から声が聞こえるようになった、それくらいの境地にいます。声を聞きながら、そのときの体調に合わせてやっています」
器具と対話し、体を合わせる――新たな地平に立っていることは、進化と言えた。
改めて知る体操の難しさと伸びしろ
また、NHK杯後にはこのような話をしている。
「ちょっと自分に期待していた部分もあったけど、まだまだだなというか、あらためて体操の難しさを知った1日でした」
それもまた、体操についての発見と言える。
まだ知らない世界があることを知り、だからもっと極めたい、成長できる。伸びしろが自分にはある。そんな思いが伝わってくるような言葉であった。
全日本種目別選手権が終わったあと、どのような結果が待っているのかは分からない。
状況はどうあれ、ここまでの大会で納得がいかなかった出来を修正し、より高いパフォーマンスを目指して内村は臨むだろう。
「人が見て完璧というより、自分が納得する演技。人から『すごくよかったね』『完璧だったね』と言われても、結局自分が満足できないと僕は納得いかないです」
自身の演技を追求した先に、次の道が見えてくる。