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低迷続いたイングランドがやっとトンネル脱出? 育成強化が実ってW杯、EUROを制する日は来るか
text by
粕谷秀樹Hideki Kasuya
photograph byGetty Images
posted2021/04/09 06:00
新鋭が台頭しているイングランド。EUROやW杯で結果を残せるか
イングランド代表やウェストハムの技巧派MFとして人気を馳せ、FAでは若年層の育成を担当していた当時のトレバー・ブルッキングも、イングランド・フットボール全体を嘆いていた。
「代表を強くしようとする努力を惜しみ、少年チームのコーチは勝利至上主義だ。身体の大きな子ばかり使って、ロングボールを放り込ませるだけ。世界の基準から遠く遠く離れている」
ロングボールという悪しき伝統
ロングボールはイングランド・フットボールの伝統だ。頭ごなしに否定はしない。ただ、少年時代は単一的なスタイルではなく、多くの手法を学ぶべきだ。ボールキープ、スペースの創り方、方向転換、パスの強弱……。ペレもヨハン・クライフもミシェル・プラティニもジーコも、ロングボールよりパスフットボールを好んでいた。ロングボールはあくまでもひとつの戦略であり、90分間にわたって対戦相手を悩ませるわけではない。
協調性を欠き、若年層の育成にも問題を抱えていたのだから、イングランド・フットボールの低迷は至極当然のことだった。
フランスが誇る育成機関、『クレールフォンテーヌ国立研究所』はよく知られている。若年層をチェックする基準は足もとのテクニックと敏捷性。1976年の開設後、ティエリ・アンリ、ニコラ・アネルカなどのスターが育ち、キリアン・ムバッペも少年時代に多くを学んだ。
『クレールフォンテーヌ』のような施設がなく、時代後れのコーチが指導していたのだから、イングランドが世界基準から遠のいたのは当然だ。代表チームのセンターフォワードが積極的に表現すれば武骨、世間一般的には不器用過ぎていては、ビッグトーナメントで結果が伴うはずがない。
世界の列強が最後の30mを攻略する手段として、基準点となるタイプではなく、より機動力のある選手を起用していたにもかかわらず、イングランドは高さと強さにこだわり過ぎていた。
2013年にようやく創設した育成施設
こうした状況を憂慮し、2013年に開設された施設がイングランド国立トレーニングセンター、『セントジョージズ・パーク』である。『クレールフォンテーヌ』の誕生から37年後、だ。のんびりしているのか、遅きに失したのか。
しかし、国家プロジェクトともいうべき『セントジョージズ・パーク』の開設により、イングランドは若年層の指導を根本的に覆した。