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【センバツ】なぜ令和の高校球児は「球速にこだわらない」? 193cm天理・達孝太の理想は「回転数がいい」シャーザー
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKYODO
posted2021/03/20 18:00
宮崎商を破り、笑顔で引き揚げる達孝太(中央)ら天理ナイン
トラックマンやラプソードなどの計測機器の導入で、ピッチャーのボールやバッターのスイングなどがデータとして可視化されるようになった。回転数もそのうちの一つで、「キレがあるボール」とただ人間の目で判断するのではなくて、データとして数値に表す。そうすることでトレーニングでの取り組みと実際に投げているボールを一致させ、ピッチングの質を高めることができる。
達はもともとメジャーリーグに興味がある。将来的に挑戦したい気持ちももちろんあるが、それとは別に一人のプレイヤーとして最高峰の舞台で繰り広げられる技術そのものに興味があるのだ。
「目標とする選手はダルビッシュ(有)さんですけど、ピッチング(の理想)はマックス・シャーザーですね。回転数がいいボールを投げると知りました。投げているフォームはそんなきれいではないのですが、あの力感で投げているのはすごいなと思います。ピッチングのイメージづくりにシャーザーがいます」
昨今の高校生は情報が早い。SNSの普及や動画配信サービスの影響があるのだろう。向上心のある選手ほど、情報を多く入手し、自身の成長に余念がない。言い換えれば、情報を多くとっている選手ほど確実に成長している。
「球児の回転数が知りたい」高野連へのお願い
この日投じた161球。普通に考えれば決して少なくない数字だ。それでも投げ切れたのは、達の根性がそうさせたわけではなく、彼の技術に裏付けがあるからだ。
試合後のオンライン取材は自己最速タイ記録(146km)をマークしたストレートの球速ばかりに質問が集中したが、達はこんな言葉を残している。
「球速は出る分にはいいことですけど、いま、求めることではないかなと思っています」
テクノロジー化の波に乗り遅れまいとする投手の登場は野球界を高いレベルに誘うだろう。この日、達が見せたピッチングは大袈裟な言い方をすれば、高校球児が新しいフィールドにやってきた証左と言える。球速だけに頼らず、打者を差し込んでいくストレートがある。高校野球はついに「回転数」が語れる時代がやってきた。
そんな時代の到来とともに、最後に日本高野連へ一つお願いしたい。甲子園球場にはボールの回転数やバットスイング、バットの角度などを測定するトラックマンが備え付けられている。阪神タイガースの本拠地球場だからなのだが、この最新の機器の使用を日本高野連はこのセンバツ大会は認めていないという。
今の高校球児の回転数。知りたいと思うのは筆者だけではないはずだ。
高校野球が新時代に向かうためにも、大きな決断をしてほしい。