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「このままでは韓国・台湾に勝てなくなる…」社会人野球の“強い危機感”はプロ野球に届くか?【野球データ革命】
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKYODO
posted2020/12/14 17:03
今年の都市対抗野球。NTT東日本を破って優勝を決め、喜ぶホンダナイン
ただ、テクノロジー化の本家・メジャーリーグと異なっているのは、そうした最新のデータが公になっているか否かである。日本では、トラックマンデータのほとんどが一般人には見ることのできないものになっており、その深みを知ることはできない。だから、これまで野球界では一部でしか楽しむことはできなかった。
都市対抗野球で行われていた中継は、先進的なものだったというわけである。
中継上で公開されるデータに限りはあったもののアナリストが見ることができたのは詳細なデータだった。それを基に解説するので、視聴者は選手の詳しい力量を知ることができたのだ。さらには社会人名門チームで監督経験のある解説者も意欲的にコメントに活用し、データと掛け合わせた選手心理や戦術の深みを語るなど解説レベルにも高度な変化が見られた。
「選手側の関心は思った以上に高い」
画期的ともいえるこの取り組みが行われた背景には、野球のテクノロジー化に関する理解が社会人野球全体に徐々に広がっているという事情がある。
侍ジャパン社会人代表の監督で、今大会の解説を務めた石井章夫は言う。
「ジャパンの合宿などでもデータを基にしたプレーというのを取り入れるようになりました。ネクストベースさんの協力を得て実現したのですが、実践してみて思ったのは、選手側の関心が思った以上に高いということです。最近はYouTubeなどでメジャーの情報も多く取れますので、参考にしているのでしょう。今回の中継でも、情報の開示をどこまで行うかという問題はありましたが、選手・指導者ら現場サイドの理解がありましたので、実現につながったと思います」
「このままではアジアで勝てなくなる」という危機感
そもそも、テクノロジー化は自らが社会人代表を指揮する中で、ぶち当たった壁だったと石井はいう。社会人代表は、アジアの舞台が主戦場となる。ライバルは韓国や台湾で、日本は劣勢を強いられている。その違いは何かというと、アメリカ式を取り入れている他国と日本の“差”だそうだ。
このままではアジアで勝てなくなると踏んだ石井らはアメリカ・アリゾナのフォールリーグを視察し、その実態の調査まで行っている。
石井は、その大いなる違いに愕然とさせられたと語っている。