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五郎丸も愛用、1980円(税込み)の「キックティ」秘話 ダン・カーターも開発に携わった素材詳細は“秘中の秘”
posted2021/04/04 11:00
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph by
Getty Images
冬の気配とともに佳境を迎えるラグビーシーズン。ジャパンが躍進した過去2度のワールドカップでは、ふたりのキッカーが脚光を浴びた。南アフリカを倒した2015年大会では五郎丸歩が、初の準々決勝進出を果たした'19年大会では田村優がヒーローになった。
ジャパンの得点源となった彼らのキックは、“キックティ”という楕円球の台座から放たれる。今回紹介するのはニュージーランドの老舗キックティメーカー「BOFFO SPORTS」の「カーター スーパーティ」1980円(税込)。その名の通り、オールブラックスのレジェンド、ダン・カーターが開発に携わった珠玉の一品。五郎丸も長年、愛用している。
かつてラグビーではキッカーがスパイクで地面を掘り返したり、砂やおが屑などでボールをセットしていた。ただ、これでは時間がかかり、グラウンドを傷めるため、'90年代にニュージーランドでキックティが開発される。
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BOFFO SPORTSのキックティを扱う株式会社WRS JAPAN代表取締役社長・大室誠さんによると、開発は難産だったそうだ。
「BOFFO SPORTSの設立者ピーター・ウィリアムズは、試作品第1号にプラスチックビーズ入りのクッションを製作。代表選手に試合で使ってもらうところまで漕ぎつけました。ところが待ちわびたキックの場面で、それが使われることはなかったそうです」
前日の練習でクッションが破れ、無残にもビーズが飛び散ってしまったからだ。
ポリ塩化ビニルの配合比率は秘中の秘
再考を余儀なくされた彼は、次に可鍛性プラスチック製の台座を試作する。
「これならキッカーが好みの形に成型できて、熱で元の形に戻すこともできる」と勝算があったが、またもや失敗に終わる。
「素材の形状記憶性質が裏目に出て、気温が22度を超える日には、ボールの重みでプラスチックがへこんでしまったそうです」
数々の失敗を乗り越えて、キックティはようやく世に送り出された。素材にはポリ塩化ビニルが使用されているが、その配合比率は秘中の秘とされている。
高さ、角度、軽さなど、キッカーの繊細な感覚にフィットするキックティ。過去2度のワールドカップでは空前のラグビーブームが巻き起こり、売れ行きが大幅に伸びた。
「五郎丸さんが活躍した'15年大会では、例年の4倍も売れて驚きました。後日聞いたところ、どうやら記念ボールの台座用に購入されたファンも多かったそうですが……」