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祖父は伝説の棋士、22歳藤沢里菜女流四冠が達成した女性初の快挙とは【共用スリッパで帰るドジっ子だけど】
text by
内藤由起子Yukiko Naito
photograph byKYODO
posted2020/12/02 11:01
男女混合戦である第15回広島アルミ杯・若鯉戦で優勝した藤沢里菜女流四冠
「秀行先生より肝が据わっている」
秀行は華麗な碁で魅了する一方、ポカ(うっかりミス)で好局を落とすことも多々あった。藤沢はミスが少ない堅実な打ち方が特徴だ。正確なヨセ(終盤)を見せて、半目(最小差)で勝ちきった若鯉杯決勝戦では、囲碁AIソフトの「リーラ・ゼロ」を模して「リーナ・ゼロ」とニックネームがついたほどだ。武宮正樹九段も「秀行先生より肝が据わっている。安定感があり、秀行先生の悪いところは受け継いでいない」と評した。
「秀行先生のような才能あふれる華麗さはありません。里菜はひたすら努力で積み重ねていきました」(洪四段)
試合に負けると、つらい。けれど、寝て起きて大好きな散歩をすればすかっと忘れられる。
しかし数年前までは切り替えがうまくいかず、引きずってしまうことがあった。
2015年の女流本因坊戦で2連勝のあと3連敗を喫して、謝依旻六段にタイトル奪取を許したときは涙が止まらなかった。
私生活ではおっちょこちょいなところが
「当時は目の前の結果にとらわれていました。しかしそれをバネに生かせばプラスにできる、引きずったらもったいないと考えるようになりました」(藤沢)
調子が悪いときは何年かに1回は訪れる。そのたびに「この季節が来たな」と思う。「勝てなくなった時期に頑張れば必ず成長できると思っています。めっちゃつらいとは思いません。基本、ネガティブではないので」と前向きに捉えることができるようになり、強さに磨きがかかった。
そんな真面目で努力家、盤上ではミスが少ない藤沢だが、私生活ではおっちょこちょいなところがある。
和室の対局室では、ちょっとお手洗いなどに行く用にスリッパが置いてある。藤沢がそのスリッパを履いたまま帰ろうとしたのは、有名な話だ。「スリッパのまま電車に乗ったとか家まで帰ったとか、エピソードが盛られて。実際は日本棋院の敷地から出ていません」と藤沢。