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プロ野球スカウトに聞く「ヨソに獲られた選手で欲しかったのは?」阪神3位指名の… ドラフトウラ話【西武・阪神編】
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byAFLO
posted2020/11/11 17:03
「猛虎打線」復活の布石と期待される阪神1位佐藤輝明(近畿大)
「何がなんでも、西武は渡部健人が欲しかった……それだけのことですよ。僕らの仕事は『獲る』ことなんです。仮に、ヨソの情報かき集めて、いろいろシミュレーションして、こうこうこうだから渡部は“2位”で獲れます!って予測を立てても、もし1つ前でヨソに獲られてしまったら、僕らの仕事としては“0点”なんです。1つ前まで残ってたのに…なんて理屈は通用しない。こういうことは、ドラフトでは、よくあることですから」
たとえば、昨年「2019ドラフト」だ。
1位入札で大船渡高・佐々木朗希投手を外した楽天は、一転、繰り上げ1位に社会人の遊撃手・小深田大翔(大阪ガス)を指名して、会場をドッと沸かせたものだ。
「あれだって、楽天は佐々木も欲しいけど、チーム事情として、小深田もどうしても欲しかった……だから、あそこに持ってきた。1位が似合うか、2位が似合うのか。たぶん、ファンの人たちは、そのへんで驚いたり、批判したりするんでしょうけど、僕ら現場の人間は感覚がちょっと違うんですね」
「繰り上げ1位は僕らから見れば“2位”」
昨年の今ごろ、楽天はせっかくの「1位指名」という貴重な権利を放棄したようなものだ……それほどに辛辣な声までも上がっていたが、結果として、小深田が遊撃のポジションに入ることで茂木栄五郎の守備の負担が軽減され、二塁も守れることから主砲・浅村栄斗をDHで起用して、体力を温存させる効果もあった。
そして、それ以上に、小深田本人も2割8分前後の打率をマークしながら、リードオフマンとしても活躍し、「新人王」を競うまでに頭角を現わしているのだから、まったく頭が下がるばかりだ。
「繰り上げ1位って、ファンから見れば“1位”かもしれないですけど、僕らから見れば“2位”なんです。1位は獲れようが、外そうが、スカウトにとっては、ただ1人だけの存在。外して、次に指名する選手はあくまでも2位なんです。今年の西武の場合は、ピッチャーでどうしても欲しかったのが早川だった。でも外してしまったから、野手でいちばん欲しい渡部に行った。ウチだって、右打ちの野手では1番の評価をしてました。それぐらいの選手ですよ、渡部は。世間の評判がどうであれ、そんなことは関係ないんです。野手の中では、何がなんでも渡部が欲しいから、ヨソが獲る前に獲りましょう……それが、僕らスカウトにとって、『仕事をした』ってことなんです」
【阪神編】スカウトが「ヨソに獲られた選手で、欲しかったのは…」
早稲田大・早川隆久投手同様、「4球団重複」なら少なかったほうだろう。
それにしたって、1位入札・佐藤輝明(近畿大)を手中に収めたことは、これ以上ない「猛虎打線」復活の布石となるだろう。
それに加えて、東北福祉大当時の矢野燿大監督と瓜二つの強肩捕手・栄枝裕貴(立命館大)を4位で獲得し、右腕の故障さえなかったら「2位」はあったはずの完成系右腕・村上頌樹(東洋大)まで5位で指名。
さらには、今季の守備率セ・リーグワーストの内野陣に、二塁も遊撃も同様に高レベルの守備力を持つフィールディング名人・中野拓夢(三菱自動車岡崎)まで手当てできたのだから、今年の「阪神ドラフト」は、まさに、やりたい放題。
来年以降の戦力アップは間違いないところだ。
そんな中、こんな事があった。