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【引退】吉見一起が打ち砕かれ、目覚めた日 “精密機械”が極めた「もっと低く」のエース道
text by
小西斗真Toma Konishi
photograph byKyodo News
posted2020/11/05 17:00
吉見の今季唯一の勝ち星は6月27日の対広島戦(ナゴヤドーム)。徹底して内角を突く投球で1年ぶりに勝利投手となった
小笠原と青木に完璧に打たれ、やっとわかった
「2009年でした。追い込んで三振を、できれば見逃しで取りにいったアウトローへの真っ直ぐでした。それをどちらもきれいにレフト線に打ち返されたんです。合わせられたんじゃなく、バットの芯で完璧に打ち返されました。その前から谷繁(元信)さんにずっと言われていたんですが、やっとわかったんですよ。自分はスピードでは生きていけないと。いかにゴロを打たせるか、低めに投げられるか。それを痛感させられた、分岐点となりましたね」
2009年といえば、先述のように吉見が16勝7敗で最多勝に輝いたシーズンだ。球速も150キロ近くまで出ており、力の勝負も十分に可能なスタイルだった。ベストピッチを打ち砕かれた経験が、吉見に生きる道を示してくれたのだという。とはいえ、外角低めへのストレートを打たれたら「もっと速く」となってしまいそうなもの。そこが非凡なのだろう。吉見は野球人生の分岐点で「もっと低く」を選んだ。そして、それは正しかった。キャリアの頂上はこの年の16勝ではなく、2年後の18勝だったのだから。
現役最後のユニフォーム姿を
こんな握りをし、こんなフォームで投げれば、こう変化して打者はこんな反応をする。科学者のように、吉見という投手は仮説、実験、検証を繰り返し、実績も残してきた。自分がなぜできるのかを説明できる人間は、指導者に向いている。そして入団前も含めて、5度もの手術とリハビリを繰り返した経験も、野球人としての血や肉となっている。
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吉見が語った「次のステップ」は指導者を意味しており、中日球団でも適性を高く評価している。近い将来の復帰は確実視されているそうだ。優勝の味を知っている選手がまた一人引退するのは寂しい限りだが、いつの日か必ず戻ってくるはずだ。第二の人生は未定だが、解説者として投球理論の引き出しを増やしていくことが濃厚だ。
現役として最後のユニフォーム姿を見せるのは6日のヤクルト戦(ナゴヤドーム)。引退セレモニーが行われ、ラストマウンドに立つ。