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神戸・三浦淳寛監督と「トランジション」 頻出ワードの哲学、バルサ的ポゼッションの理想は
posted2020/11/01 11:01
text by
白井邦彦Kunihiko Shirai
photograph by
J.LEAGUE
黒板やホワイトボードをコンコンコンとノックしながら、先生は声を張り上げる。
「もう1回言っておくよ。ここ試験に出るからな」
学校や塾でありがちな場面。そう、大事なことは何回も繰り返す。それはスポーツの世界でも同じだ。
Jリーグの監督も同じフレーズを繰り返すことがある。試合に勝っても負けても繰り返される言葉には、チームが抱える課題だけではなく、指揮官の考えが反映されていることが多い。つまり、監督がよく口にする言葉にはチームコンセプト、あるいは哲学が集約されていると言っていい。さらに、クラブの現状が垣間見られる点も興味深いところだ。
ヴィッセル神戸でも、歴代監督が何気なく口にするフレーズには、チームのスタイルや方向性、監督の好みが見て取れた。
例えば、2009年から2012年にヴィッセル神戸を率いた和田昌裕元監督。練習後の囲み取材などで、たびたび「サイドチェンジ好きやねんなぁ」と話していた。
実際、1シーズンを通してヴィッセル神戸を指揮した2011年には、効果的なサイドチェンジによるダイナミックな戦術を練り上げた。シーズン途中には、ドイツ2部のコットブスを退団していた左SBの相馬崇人を獲得し、サイド攻撃に厚みを持たせている。何気ない会話でよく口にする言葉には、監督の考えが隠れていることが多い。
西野監督時代に求めていたことは
その和田監督から安達亮氏を経て、2012年シーズンの途中(5月)に就任した西野朗元監督は「速攻と遅攻の使い分け」「人数をかけたカウンター」というフレーズを口にしていた。
クラブ側が求めたのは、堅守速攻からガンバ大阪のようなポゼッションサッカーへの移行。だが、選手補強も含め、スタイル改革にはある程度の時間を要す。長期的なビジョンを念頭に、当時のメンバーを考慮した上で出した回答が「人数をかけたカウンター」だった。
だが、天皇杯でJFLのSAGAWA SHIGA FCに敗れるなど公式戦9試合で白星なしという結果を受け、西野元監督は契約を解除される。このあたりから、ポゼッションサッカーへの移行に向けた試行錯誤、言葉を選ばずに言うなら“迷走”が始まる。