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ついに実現「青森山田vs青森山田」 豪雨の中ぶつかるプライドと劣等感…涙の“直接対決”に密着
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2020/10/07 17:01
激しい雨の中、気迫みなぎるウォーミングアップを見せる青森山田の選手たち。先頭に立つのはセカンド主将を務めた3年・内間
涙を流す内間「負けたらこんなに悔しいのか」
試合前から毅然とした態度でチームを牽引し、表彰式後には泣きじゃくるセカンドの選手全員の前でスピーチをした3年生・内間はこう口を開いた。
「声を出し尽くして、これ以上(声が)出ない状況までになったこと自体が初めての経験。セカンドの試合でもトップの練習でも、ここまで叫んだり、最後まで声を張り続けたことはなかった。考えてみたら普段の全体練習では優大、安斎、玖生が声を出して引っ張ってくれて、僕らはそれについていっているだけだった。いかに自分が今まで、ここまでの限界までやってこなかったかということが浮き彫りになったし、力になれていなかったことがわかりました」
反省の弁を述べた内間に、藤原と松木の言葉を伝えると、彼はこみ上げてくる涙を必死で堪えながら話を続けた。
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「セカンドのキャプテンになってからは、自覚を持ってやってきたつもりでした。でもやっぱりトップの練習の時はどこか自分が出せなかった。それは練習試合をして、大敗したり、歴然とした差を見せつけられたことで、心のどこかに『俺たちはセカンドチームだから』という劣等感があったから。でも、その劣等感を力に変え切れていなかった。今日の試合で『何がなんでもトップを倒す』という気持ちをぶつける大切さを学んだし、負けたらこんなにも悔しいのかということも学べた。今までサッカーをやって来て一番の悔しさを感じています。それはセカンドのみんなも感じていると思います」
仲間同士の真剣勝負が生み出したのは、本気になることの大切さと、トップとセカンドの間にあった感情を越えた先の景色だった。内間の表彰式後のスピーチには「この中から選手権のメンバー、スタメンに食い込んでいこう。口だけで終わらないように本気で行動して(トップの選手を)脅かしていこう」という言葉が刻まれていた。
「トップとやっと同じ土俵に立てたというより、本当はすでに立っていたのに、それに自分たちが気づけていなかっただけだった。優大や玖生が僕らに対して『もっとやれ』と思うのも当たり前だなと思う」(内間)
青森山田に受け継がれる「内に秘めるな」
青森山田で強くなりたい。ここにいる全員がそう強く思い、覚悟を固めて門を叩いて来た。しかし、固まりつつあった「序列」にそれぞれの選手が葛藤を抱えていたのも事実だった。どこかで自分の限界を決めてしまっていた――。この試合はそんな気持ちすべてに風穴を開けたのだ。
「練習試合をすればするほど、セカンドの選手が僕ら(トップ)に言いにくくなってしまっていたのかなと感じました。僕らは時にきつい口調で要求するけど、トップの選手がミスをしても彼らがきつい口調で言ってくることはなかった。よく考えると、(トップの)結果が出てしまっていたので、そこを踏み切る勇気を持てなかったと思う。でも、この試合で『本気でぶつかれば、大きな差はない』ということが明白になったからこそ、これからは踏み切る勇気を持ってくれると思うし、僕らも自分たちを見つめ直して立ち振る舞える。全員が今日で一皮剥けたんじゃないかなと思います。
黒田監督からは常に『内に秘めるな。それを前面に出していくのが青森山田なんだ』と言われるのですが、本気で泣いているセカンドの選手たちを見て、真の青森山田に近づけたんだなと思った」(藤原)
苦楽を共にした仲間同士で、再確認し合ったチームとして大切なもの。戸惑いを抱きながら過ごした青森山田高校サッカー部の長い1日は、大きなターニングポイントとなったに違いない。
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