球体とリズムBACK NUMBER
「目指しているのはもっともっと上」
湘南・鈴木冬一、20歳の焦燥とは。
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byJ.LEAGUE
posted2020/08/13 11:40
湘南ベルマーレで自身の力を磨いている鈴木冬一。困難をバネとしてスケールの大きな選手となれるか。
じっくり考えて修正していこうと。
シーズン中に最下位に落ちることも、試合中に相手の重圧に晒されるのも、困難な状況だ。でも鈴木なら、そんなシチュエーションさえ、自分の成長につながると考えているかもしれない。
なにしろ彼はセレッソ大阪U-23に所属していた頃、17歳でJ3にデビューしながら、その後に「厳しい環境で鍛えてもらいたい」と望み、元国見高校の小嶺忠敏監督が率いる長崎総合科学大学附属高校サッカー部へ編入しているのだ。
そこで見事に高校選手権へ出場し、卒業後に湘南へ入団。その理由も、当時の曹貴裁監督の「きついトレーニングを受けたかったから」と話していたことがある。
「(苦境は成長につながると思う?)そうかもしれませんね」と真顔を崩さずに鈴木は言う。「ただ苦しいからといって、とりあえずやってみるというのは、あんまり好きじゃなくて。うまくいかないときは、時間をかけてじっくり考えて、修正していくほうがいいと思います」
「もう少し全体が流動的になれば」
記者席からニュートラルに観ていると、現チームの一番の問題は新たに目指すスタイルのメカニズムが、ほとんど何も確立されていないことにあると思える。そこには理想や目標があるけれど、方法論が伝わってこない。
ひとつ例を挙げると、遅攻の際にボールホルダーの周囲で効果的に動きをつける選手がとても少ない。ポゼッションやパスワークというものは、技術や知性、自信はもとより、周囲の仲間との連動がないと実現できないものだ。
それはこの競技の醍醐味のひとつとも言えるが、リスクを伴うものだから、弱点を晒すことにもなるし、結果が出るまでに時間もかかる。志を貫くにしても、有効なメソッドが欲しい。
「もう少し全体が流動的になれば、ボールに関わる人数も増えるし、相手も嫌だと思います」と鈴木も同意する。
「出して動いて、出して動いて、と。今はけっこう(選手が)固定されているシーンが多いので、もっと動きが必要だと思います。たとえば僕が中に入っていったら、後ろの選手が外を追い越していくとか。あと、(以前の)3-4-3のときは、クロスを上げる時になかを見ると、少なくとも2、3人はいたけど、今は正直、ちょっと少ないかなと思うことが多くて」