球体とリズムBACK NUMBER
「目指しているのはもっともっと上」
湘南・鈴木冬一、20歳の焦燥とは。
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byJ.LEAGUE
posted2020/08/13 11:40
湘南ベルマーレで自身の力を磨いている鈴木冬一。困難をバネとしてスケールの大きな選手となれるか。
複数ポジションできるのは有利だと。
鈴木自身は時折、左端から中央や右に動いて、ボール回しを円滑にしようと試みている。ポジションも今はウイングバックだが、もとはアタッカーで、プロになってからは逆サイドやセントラルMF、3バックの左も経験した。自身はどこに適性があると考えているのだろうか。
「特にここで勝負したいというのは、今のところなくて。どこで出てもしっかりできる選手になりたいです。今は監督が左で選んでくれているので、全力でやるだけです。ただ先を考えても、複数のポジションをできるほうが有利だと思います」
世界を見れば20歳でも主力は多い。
20歳の鈴木のサッカー人生はまだまだ長い。けれど本人は、自分の年齢を「全然若くない」と言う。その理由は、彼が世界の舞台で文字通り対峙したライバルたちが、いまや世界のトップレベルで輝いているからだ。
3年前に出場したU-17W杯では、決勝トーナメント1回戦で、のちに大会を制することになるイングランドと対戦。ゴールレスドローの後にPK戦で惜しくも敗れた試合で、鈴木はフィル・フォデン(マンチェスター・シティ)やカラム・ハドソン・オドイ(チェルシー)らと戦った。
彼らは今、プレミアリーグやチャンピオンズリーグといった真のエリートレベルの舞台でプレーしている。
また今季のブンデスリーガを沸かせたアーリング・ハーランド(ドルトムント)とアルフォンソ・デイビス(バイエルン)も、鈴木と同じミレニアム生まれ。レフトバックの後者とは、ポジションもほぼ同じだ。
「ヨーロッパのビッグクラブで主力として試合に出ている選手が多いですよね」と鈴木は言う。
「自分は湘南でJ1の試合に出られているので、それ自体は嬉しいですけど、僕の目指しているところはもっともっと上です。(ポジションも近いデイビスのような存在は)刺激になるし、自分もそんな風に見られるようになりたいですね」
苦境を乗り越えて成長を遂げてきた彼なら、今の厳しさを克服して、望む場所へ近づいていくのではないか。今はもう、上を向くしかない状況だ。ここからいかに這い上がっていくのか、その足跡は興味深い。