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久保建英の現在地を中西哲生が解説。
譲られたFKが示す絶大な信頼感。
text by
中西哲生+戸塚啓Tetsuo Nakanishi + Kei Totsuka
photograph byAFLO
posted2020/06/16 11:50
力に差があるチーム同士の戦いでも個人の能力を発揮できたのは、久保建英が高いレベルにいることの証明である。
決定的なチャンスに力まない精神。
前半20分過ぎには、右サイドからカットインして決定的なシュートを放ちました。バルサの守備陣を慌てさせたこの場面では、「力んでいない」ことに触れるべきでしょう。
決定的なシュートシーンで「決めてやる」といった感情が先立つと、フォームが崩れてしまいます。久保とは以前から「決めたいと思うと、決まるフォームにはならない」と話しているのですが、左足でインパクトをした瞬間の姿には、「決めてやる」といった感情が浮かんでいなかった。つまりは「力みがなかった」ということです。
「決めてやる」という気持ちはもちろんあるけれど、気持ち先行にならない、気持ちに身体が縛られない、ということです。
それでも得点に至らなかったのは、シュートコースがイメージどおりではなかったから。あと少しだけ高さがあれば、テア・シュテゲンに防がれることはなかったでしょう。
マジョルカでの居場所を確実にした。
30分過ぎには直接FKからゴールを狙いました。この試合最初の直接FKです。中断前ならサルバ・セビージャが蹴っていたに違いない場面で、36歳のベテランがキッカーを譲った。そこに私は、中断期間中に久保がつかんだ信頼の深さを読み取りました。ビセンテ・モレノ監督とチームメイトは、彼が蹴ることに納得していたわけです。
無回転のストレート系を選択したシュートは、カベをすり抜けたもののGKの正面を突きました。ここでは得点に結びつかなかったですが、キックのバリエーションもクオリティも備えています。このままキッカーを任されていけば、直接FKからのゴールも近い将来に見られるかもしれません。
他国のリーグ戦と同じくラ・リーガも、再開後は選手交代が5人まで認められています。そのなかで、久保はフル出場しました。中断期間を経て序列の変わったポジションもあるなかで先発を譲らず、最後までピッチに立ったのです。
マジョルカというチームでどうやって特徴を出していくのかについて、久保は答えに近づいていると感じます。