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ヤクルト黄金時代の愛弟子が語った
人格者のようで毒を秘めた野村克也。
text by
赤坂英一Eiichi Akasaka
photograph byKyodo News
posted2020/03/12 12:00
現役時代の石井一久と、彼を見守る野村克也監督。毒舌と愛情、人間関係とはいかにも複雑なのだ。
「人生とは」で始まったミーティング。
その石井氏をヤクルトの野村門下生の中で一番の大物だったかもしれない、と評価しているのが宮本慎也氏だ。石井氏は現役引退後も評論家として非常に優れた仕事をしていると、宮本氏が野村さんに話したところ、ノムさんは「バカは演技か。騙されたな」ともらしたという。
宮本氏は、飯田氏や石井氏より遅れて'95年にヤクルトに入団した。すでにファンの間でも有名になっていたユマキャンプでのミーティングに初めて参加したときは、想像だにしていなかった内容にびっくりした。
「最初の2日間ぐらいは、全然、野球の話が出なかったですからね。『人生とは』とか、『神に委ねなさい』とか。最初は、何か宗教に入られてるのかと思ったぐらい、神という言葉を何度も聞かされた記憶があります」
複雑で魅力的な野村像。
そんな野村語録を最初から最後まで、宮本氏は丁寧にノートに書き記していった。キャンプ中のミーティングは休みの前日を除いて毎日、常に夕食のあとに行われる。つい眠気を催してミミズが這ったような字になることもあったが、そういうときはほかの選手からノートを借りて書き写した。
宮本氏はこの1年目のキャンプのミーティングで、監督に野球人生の指針となる言葉を与えられた。それはよく言われているように、1対1で言い聞かされたわけではない。野村さんがミーティングで選手全員に話していた言葉が、「ストンと自然に自分の中に落ちてきた」のだそうだ。
まさに神の言葉である。
同じ時代にヤクルトで活躍した選手たちにとっても、野村克也との距離感はそれぞれに異なる。飯田氏にはいまだにわからないことがあり、石井氏との間には秘めた絆があり、宮本氏は誰よりも「ノムラの言葉」に多大な影響を受けた。複雑で魅力的、人格者のようで毒を秘めた野村像を、今週のNumberで御一読ください。