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青学は「人間と戦術」で優勝した。
3月の立川から1月の箱根への激変。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byNanae Suzuki
posted2020/01/07 20:00
青学は1区に吉田圭太を配置した。序盤に離されなければ総合力では優勝を争える、という自信の現れでもある。
靴への過剰なフォーカスはミスリード。
ここからは、私の推測である。
今回、青学大恒例の作戦名が「やっぱり大作戦」になったのは、ヴェイパーフライを使用するようになってから、
「俺たち、やっぱり速かったんだ」
と選手たち、そして監督が感じたからではないか。
11月中旬、原監督と話をした時に、この作戦名がすでに出ており、これは偶然とは思えない。
しかし、昨今のシューズにフォーカスした論調は、物事の本質を見誤らせる。
今後、カーボンプレート内蔵のシューズがプラットフォームになるにせよ、勝負の白黒をつけるのは、月間700kmから1000kmを走る大学生である。人間である。
ヴェイパーフライを履いても区間20位の選手もいれば、10区で区間賞を獲得した創価大学の嶋津雄大のように、ミズノのシューズで区間賞を獲得した選手もいる(ヴェイパーフライ同様、カーボンプレートを内蔵したミズノのプロトタイプと言われているが)。
エースを1区に投入する決断。
最終的に、青学大は戦術で勝った。
12月の段階から、原監督は「戦術駅伝」という言葉を使い始めた。
監督が決める区間配置によって、順位が入れ替わるということだ。それは原監督の去年の経験から導かれたものだ。
「去年、主将の森田歩希が12月に故障して、それで2区はむずかしいと考え、3区に回したんです。でも、森田の走りを見たら、2区でも十分に勝負できたよね。改めて、誰をどの区間で走らせるのか、それを熟考することが大切だと痛感しました」
そして原監督は、攻めた。
エースの吉田圭太を1区に配したことで、東海大に対して先手を取る意思表示を鮮明にした。従来、1区は差がつきにくい区間でもあり、ここにエース級を使ってしまうと「もったいなかった」ということになりかねない。しかし原監督はスピード駅伝になると踏み、吉田圭太を投入することに躊躇はなかった。