野球クロスロードBACK NUMBER
浅村栄斗の移籍1年目は雨のち晴れ。
最終盤の絶好調を導いた、ある練習。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byAFLO
posted2019/11/23 20:00
プレミア12で優勝した日本代表でも、浅村栄斗はクリーンナップを担った。
前向きな考えと、甘い考えの線引き。
前半戦が終わる頃、浅村がこのように吐露していたのを思い出す。
「1日、1打席、1球で感覚とか調子がコロッと変わるのが、野球の本当に難しいところで。ヒットとかホームランが出ていない時期に、『そろそろ打てるようになるだろう』『今が一番下だから、ここから状態は上がっていくだろう』とか、前向きかもしれないですけど、自分はそれが甘い考えだと思っていて。
自分のなかで『これだ』と思える感覚であったり、バッティングが掴めるまでは、いろんなことを考えて、試しながらやっていかないとダメだと思っています。それまでは耐える時期というか。今、そんな感じですね」
前半戦終了時に2割8分だった打率が、後半戦も佳境の9月に入ると最低で2割5分6厘まで落ち込んだ。それでも浅村は耐えた。
「歯がゆい」
後ろ向きな感情をさらしてもなお、結果を甘んじて受け入れ、そして活路を見出すべく試行錯誤を繰り返した。そうして導き出した答え。それは、ちょっとした空間の穴埋めだった。
打撃投手は「打者の恋人」である。
浅村の苦悩を間近で見続けていた打撃投手の部坂俊之は、そこにいち早く気づいた。
自分から「ここが悪い」と助言することはない。「浅村は練習から考えて打っているから。自分が言ったことによって、それを乱したくない」というのが理由ではあったが、選手の機微に敏感で「打者の恋人」とも表現される打撃投手だからこそ、小さな変化もすぐに見分けることができた。
部坂いわく、それはシーズンも残り10試合となった頃だったという。
浅村が打席での立ち位置を変えず、ホームベースを少しだけ内側にずらし、「外、お願いします」と求めてきたというのだ。1球、1球丹念に投じるごとに、浅村のバロメーターが確実に上がっていくことを実感できたと、部坂は唸る。
「外のボールを見やすくしたかったんだと思うんですよね。それをやる前は、無理やり強い打球を打とうとしていたからフォームのバランスが崩れているようにも感じていたんですけど、浅村らしい、バットにボールがいつまでも引っ付いているような、そんなインパクトが多くなったんです。『あ、これならもう大丈夫だ』って安心できましたね」