野球クロスロードBACK NUMBER
浅村栄斗の移籍1年目は雨のち晴れ。
最終盤の絶好調を導いた、ある練習。
posted2019/11/23 20:00
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
AFLO
浅村栄斗からすれば、それは“自殺行為”のような1球だったに違いない。
プレミア12の決勝戦。1点リードの7回、2死三塁から韓国のチョ・サンウの投じた、外角から真中へ入る155キロのストレートをライト前へ鋭いライナーで弾き返す。日本のリードは2点となり、浅村の一打で韓国の息の根を完全に止めた。
外角の球を確実に仕留める。それは、浅村にとって好調を示す「バロメーター」でもある。
プレミア12では7試合に出場し、日本代表では大会MVPの鈴木誠也に次ぐ打率3割6分をマークした。9安打の多くが、外角をセンターから右方向へ逆らわずに放った打球だった。
西武時代の2016年から、ただがむしゃらにバットを振るのではなく、相手投手のデータを把握した上で打席に立つようになったと、浅村は言う。打席によっては内角や変化球など球種に狙いを定めることはあっても、試合前の打撃練習では基本的に外角に照準を絞って打つ。
所属する楽天で浅村を担当する打撃投手たちも、「外角のボールを強い打球で逆方向に打てている時は、調子がいい」と口を揃えている。
春キャンプから、浅村は気負っていた。
'18年に西武の主将としてキャリアハイの成績を残しチームを優勝へと導いた男は、楽天移籍1年目の今季、そのバロメーターをなかなか維持できなかった。FAで楽天を選んだ瞬間から、無意識のうちに自分を追い込んでいたことも、大きく関係していたのかもしれない。
「楽天に来たからには、チームの優勝に貢献することしか考えていない」
「圧倒的な数字を残してみせる」
衆目を集めていた春季キャンプから、このように言い続けていたものだ。
開幕からコンスタントに安打も本塁打も出ている。なにより、四球や進塁打などチームへの貢献度は高かった。それでも、浅村は本来の自分と現実の打撃との誤差に、ずっと気持ち悪さを感じていたというのだ。
「感覚の差が埋まりつつあるかな?」と手応えを抱いたかと思えば、たった1打席で振り出しに戻されてしまう――そんなもどかしさと、戦っていた。