野球善哉BACK NUMBER
日本野球に根強い「投げて育てる」。
球数問題はブルペン、そして練習へ。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2019/10/01 11:50
試合での球数は見えやすいが、ブルペンや練習での球数は見えにくい。しかし大切なのは負担を減らすことなのだ。
「投げずにどう投手を育てるんですか?」
「世界の事情はわかりませんけど、初回から肩を作らせておくことで指導者が安心したいというのはあるかもしれませんね。肩を作ってあっていつでもいける状態にしてほしいんです」
そう過去に教えてくれたのは、今回のU-18高校日本代表でコーチも務めた八戸学院光星の仲井宗基監督だった。
また、7月27日に東京・大手町にある日経ホールにて開催された「100球制限は必要なのか。――科学とリアルから考える」と題したセッションの中で、こんなやりとりがあった。
日本高校野球連盟の有識者会議のメンバーでもあるスポーツ整形外科医の渡邊幹彦氏が球数制限について、名だたる高校野球の監督たちから受ける反論のことを語っていた。
「僕が投球制限の話を名監督の方々とさせていただいたときに、一番言われるのは『投球制限をやるのは理解できる。でも、だったら投手をどうやって育てるんですか? 投げなくて育つ方法を教えてください』と。投手は投げなきゃいけないって思っている人が多い」
選手の健康面を管理しながら育成法や調整法を模索していくのが指導者の大事な資質だと思うが、日本の野球界には「数を投げる」以外の方法で選手を育てようという発想が極めて薄いのだ。
球数の問題は、練習が主戦場になっていく。
ここ数年、日本でも球数制限の議論は進んできた。
多くの方々が発信し、日本高野連もそれに呼応する形で風向きは変わり始めている。昨今の球数制限をめぐる大きな進歩として受け止めたいが、次の段階に進むことも当時に考えなければいけない。
履正社の岡田監督が言っていたことは一理あると思う。しかし、「投げる」という問題をクリアできない限り、日本の野球界はプレイヤーズ・ファーストを徹底できないのではないだろうか。
「球数の問題は、試合でのことより、練習でいかに調整できるかだと思います」
同じ甲子園の舞台で、そんなことを語っていた指導者もいた。あえなく時間切れでその先の理念までも聞くまでには至らなかったが、改革の方向はそちらへ向かう必要があるだろう。
その言葉の主・仙台育英の須江航監督に、改めてその理念を聞いてみたいものである。