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<エールの力2019 vol.2>
畠山健介「歴史的勝利に導いた声の力」 

text by

熊崎敬

熊崎敬Takashi Kumazaki

PROFILE

photograph byAki Nagao

posted2019/09/27 11:00

<エールの力2019 vol.2>畠山健介「歴史的勝利に導いた声の力」<Number Web> photograph by Aki Nagao

スタンドにいたフランス人の声。

 強豪フランスとの初戦、世界の舞台を初めて踏んだ畠山は試合前の国歌斉唱でけおされてしまった。

 一列に並んでフランス国歌に耳を傾けていた畠山の目は、ひとりの男の姿に釘づけになる。

 メインスタンドで立ち上がった男は、鬼のような形相で国歌をがなり立てていた。その尋常ではない様子と、スタジアムを包む怒号にも似たフランス国歌に圧倒され、浮足立ってしまったのだ。

「彼はフランス代表を必死に応援していただけだったのかもしれませんが、ぼくは恐怖を覚えて完全に飲み込まれてしまった。当時のぼくは精神的に未熟なところがあって、大会に出られるだけで満足している部分があったかもしれません」

 畠山は力を出し切れないまま途中交代を余儀なくされ、終盤まで粘りを見せたチームも最後にフランスに押し切られた。初戦で完敗したチームは1分け3敗、爪痕を残せないままニュージーランドを去ることになった。

 だが、この苦い経験を畠山は4年後に生かす。

 2015年のイングランド大会。南アフリカという強豪との初戦を前に、畠山はエディー前HCにある提案をした。フランス戦での失敗を伝え、経験の少ない選手が雰囲気に飲み込まれないよう、南アフリカ国歌に慣れておこうと提案したのだ。

 選手たちに情け容赦なく猛練習を課した鬼軍曹は、選手の声に素直に耳を傾ける柔軟さも持ち合わせていた。
 試合前日、エディー前HCは選手たちに南アフリカ国歌を聴かせ、「これが流れるから、しっかりと準備しておきなさい」と言い含めた。

 そして翌日、世界を震撼させる大番狂わせが起きる。

【次ページ】 声援は、選手の背中を押す。

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