マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
北照高・上林弘樹監督の甲子園。
2カ月前の春の大会では塁審姿。
posted2019/08/18 07:30
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Kyodo News
北海道の高校野球は、現職の監督さんや部長先生が「審判」になって、公式戦のジャッジを行う。
なんでも、ほかの地区では見られない北海道独特の手法なのだそうだ。
6月はじめ、春の北海道大会の札幌・円山球場。その日、私が会った北照高・上林弘樹監督は、審判員姿だった。
いつもなら、圧倒的な強さで勝ち上がる「小樽支部」の予選で、小樽双葉高によもやの敗退。140キロ前半の速球とキュッキュッと曲がるスライダーを兼備した右腕投手にしてやられていた。
「ユニフォーム姿の上林さんに会いたかったなぁ!」
巨人に高校生ドラフト3巡目で進んだ加登脇卓真、日本ハム3巡目で入団した植村祐介……雑誌の取材で剛腕、快腕のピッチングを受けさせてもらって、彼がコーチだった頃からのお付きあいの気安さから、ついついそんなことを口走ってしまったのだ。
「がんばります!」
苦く笑って、ひと言だけ返して飛び出して行った円山球場のグラウンドで、上林三塁塁審のジャッジは見事だった。
今すべきことに集中して。
試合開始のあいさつを終えると、レフトが定位置に向かうより速く外野フェンスへ走っていき、サッとバックスクリーンまでフェンス際を往復して、外野の芝生と地面に異常がないことを確かめる。
試合が始まると、その動きは、さらにキレ味を増した。
三塁フェンス際にファールフライが上がると、追う三塁手より速くフェンスへとっついて捕球の瞬間を待ち、ライナーがレフト線に伸びれば、軽快なフットワークで打球を追って、レフトより先にポールの下へ駆けつける。
支部予選で破れた無念をぶつけているのか……一瞬そう思ったりもしたが、上林塁審のジャッジぶりを見れば見るほど、そんなふうには見えなくなった。
今、自分がなすべきは何か?
そのテーマに、真摯に向き合っているだけ。
地区を勝ち抜いてきたチームが、目の前で存分に野球をしているのだ。
そりゃあ、くやしいだろうに、そんな素振りはこれっぽっちも表に見せず、涼しい顔で、しかし懸命にゲームをジャッジしている。
余計なことを言って、申しわけなかった。ごめんね。
いつか謝らないと……。ずっと引っかかっていた。