野ボール横丁BACK NUMBER
死闘のなか星稜・奥川に活を入れた
「ジョックロック」と漢方薬。
posted2019/08/17 17:15
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Hideki Sugiyama
普段から温厚そのもので、試合中も「あんまり吠えたりしないので」と語っていた星稜の大エース・奥川恭伸が終盤、吠えまくった。
「だいぶ熱くなってましたね」
そう照れ笑いを浮かべながら振り返った。
試合前、智弁和歌山の監督・中谷仁が冗談半分で「死闘になると思いますよ」と語っていたが、中谷もここまでの戦いになるとは予想していなかったのではないか。
星稜と智弁和歌山の3回戦は、今大会初となるタイブレークまでもつれ、延長14回裏、6番・福本陽生のサヨナラ3ランでようやく決着がついた。試合時間は、2時間51分。今大会唯一のスーパースターといっていい奥川は165球を費やし、23三振を奪いながら、勝利をたぐりよせた。
「10人目」の敵を警戒していた。
奥川は戦前、智弁和歌山の「10人目」の敵を警戒していた。ブラスバンドの圧力だ。智弁和歌山の応援団はチャンスになると「ジョックロック」と呼ばれる勇壮な曲を大音量で演奏する。甲子園ファンの間では、この音楽がかかると智弁和歌山の流れになり、得点が入ると言われている。
奥川には、苦い記憶があった。この春の選抜大会、星稜は2回戦で習志野と対戦し、1-3で敗れた。習志野もやはりブラスバンドが有名なチームだった。
「あの音にみんなやられてしまった。ピンチになると、それだけで気持ちのブレが生まれる。そこに応援の圧力がかかって、動揺してしまいました」
この日は、相手の応援も逆手にとるつもりでいた。
「みんなで曲に乗っていこう、楽しんでいこうと話していた。僕たちが戦ってるのは応援ではないので」