マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
北照高・上林弘樹監督の甲子園。
2カ月前の春の大会では塁審姿。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2019/08/18 07:30
北照高校は北海、駒大苫小牧、札幌第一などがひしめく南北海道を勝ち抜いて甲子園へやって来た。
「ほんと、なーんにもしてないんです」
ブルペンで「エース」のピッチングが始まったので見に行ったら、そこで初めて、こちらに気づいてくれた。
「試合する前に、練習でケガさせたらたいへんなんで」
選手たちから目が離せません、いつもの人なつっこい笑顔で話してくれる。
どうしたんですかと訊くから、やって来た理由を話した。
「覚えてますよー」
と、もう一度笑って、
「あれはきつかったなぁ……でも、ハンパになぐさめてもらうよりよかったですよ、あのときは実際折れてましたから」
北海道の高校野球の「夏」は、春の大会から1カ月も経たないうちにやって来る。
何か強い「薬」でも使ったの?
「なんにもしてません、ほんと、なーんにもしてないんです」
と大きく手を振って、
「選手たちが練習しました、ほんとによく練習してくれました、それだけです」
サイドハンドのエース・桃枝丈(3年・171cm64kg・右投右打)の速球が、ブルペンで唸っていた。小柄でも、全身のバネと馬力が抜群のサイドハンドの本格派だ。
甲子園で強豪を相手に一歩も退かず。
甲子園の初戦の相手は中京学院大中京高だった。
「いやあ、ここに来たら相手、みんな強敵ですから」
また愉快そうに笑って、旭大(きょくだい)に負けないような試合にしたいですね……と元気いっぱいだ。
旭川大高は優勝候補・星稜をあと一歩のところまで追い詰めていた。
さて北照は、全国有数の総合力を誇る「強敵」を相手に一歩も退かない戦いぶりを見せ、3-4の接戦の末に敗れた。
しかし実は、結果がどうなるかはそこまで気にしていなかった。
上林監督の「ユニフォーム姿」さえ見られれば、それで十分なのである。