炎の一筆入魂BACK NUMBER
“二軍ブルペン”を視察する首脳陣。
歯車が狂い始めた広島に策はあるか。
posted2019/07/08 12:10
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Kyodo News
7月3日、10時、広島市から車で30分離れた廿日市市にある広島二軍練習場に、佐々岡真司一軍投手コーチの姿はあった。「病院に寄ろうと思った」「(育成選手の)モンティージャを見ようかなと」などと笑っていたが、二軍調整中の中崎翔太がブルペン投球を始めると表情が変わった。
1球1球について二軍コーチと話をしながら、ときにうなずきながら42球を見守った。
「最後は力強い球を投げていた。勝ちパターンで投げる投手として帰ってきてもらいたい」
言葉では多くを語ろうとしなかったが、その期待の大きさは伝わってきた。
一軍首脳陣が、シーズン中に二軍の試合を視察することはあっても、練習を視察することは珍しい。年長選手の1人は「たとえ声をかけなくてもこうやって見に来てくれるだけでも二軍の選手には刺激になる。ありがたいことだと思う」と話していた。
中崎は昨年まで3年連続胴上げ投手となり、3年で76個のセーブを積み重ねた広島の守護神だ。球宴明けの後半戦。巻き返しを狙う広島のキーマンの1人といえるだろう。
広島の強さは選手の力を発揮させる環境。
4月、黒星を積み重ねながらも広島は地に足をつけて戦っていた印象が強い。5月の快進撃の予感はあった。選手個々の能力の高さはもちろんあるが、首脳陣の配慮も大きかった。
「いくら点が取れなくても、選手がシュンとするようなことは言わないようにしよう。チームに活気がなくなることが一番良くない」
緒方孝市監督からコーチ陣に出された指示だった。
だからこそ、どんなに打てなくても野手陣を励まし、失敗してもミスを咎めなかった。だから開幕直後はスロースタートだったチームが前を向き続けられたように感じる。
3連覇できた要因も「選手が持つ能力を最大限に発揮させる環境づくり」にあると感じている。
2年連続MVPの丸佳浩や精神的支柱の新井貴浩が抜けた穴は大きい。それでも開幕前の順位予想では多くの識者が広島を優勝候補に挙げたように、チームが持つ能力は高い。5月は3番サビエル・バティスタ、4番鈴木誠也、5番西川龍馬に固定した打線が機能して球団記録の月間20勝を記録した。