JリーグPRESSBACK NUMBER
4年前までアマ、今はJ1で得点王争い。
大分のエース藤本憲明は動かない。
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byJ.LEAGUE
posted2019/05/29 10:30
J1初挑戦となる29歳の藤本憲明。すでに7ゴールをマークし、得点ランク1位タイ(第13節終了時点)。
数秒にすべての力を爆発させる。
この試合の藤本は、ボールが入るたびに背後についた坂を圧倒した。空中戦で競り勝ち、動き出しで先を行き、ボールを持って振りまわす。
そして52分、圧巻のゴールが生まれた。
自陣からのタテパスに鋭く反応した藤本は、並走する坂を弾き倒してボールを収め、直後、スピードを急激に緩めて左からの山根視来のタックルをやりすごし、左足でネットを揺さぶった。
藤本が単独でゴールを陥れたのは、この数秒にすべての力を爆発させたからだ。つねに動き続けていたら、これほど切れのあるプレーはできなかっただろう。疲れていないし、目的がはっきりしているから、当然、頭も冴えている。タックルをかわした動きについて訊かれると、「(相手の動きは)すべて見えていました。ちょっとゾーンに入っていたので」と答えた。
ストライカーは無駄に動きまわらないことが大事。藤本のゴールが物語る教訓だ。言葉にすると簡単だが、なかなかできることではない。
「外国人っぽいメンタル」
私にはとても無理だ。「決められなければ批判される」というプレッシャーから、守備にサポートとさまざまな局面に顔を出そうとするだろう。「ゴールは決められませんでしたが、私は働きましたよ」と言い訳をするためだ。これが一般的な日本人の精神構造だと思う。
だが、藤本は堂々と動かない。藤本の仕事量を2シャドーのオナイウ阿道と小塚和季が肩代わりし、彼らは驚くほど走り続けていた。そんなチームメイトを見たら、私なら「ああ、ぼくもやります」と進んでヘルプに行くと思う。
こうならないところが、藤本の強さ。試合後、J3時代から藤本をサポートしている関係者が、「彼は外国人っぽいメンタルをしているんですよ」と話していた。