リーガ・エスパニョーラ最前線BACK NUMBER
シミュレーションも抗議も激減。
リーガのVARは成果上々、課題は……。
text by
横井伸幸Nobuyuki Yokoi
photograph byGetty Images
posted2019/04/27 17:30
VARには、選手が審判に詰め寄る時間をなくすという副次効果もあった。イエローカードも減っている。
改善点は、選手や観客の側にある?
2月26日のマルカ紙のウェブサイトには「リーガの20チームが不服を唱える74のプレー」という記事が掲載された。
それは、VARが介入しながら(あるいは介入しなかったから)誰もが納得いくジャッジが下されなかったケースを詳細に紹介するもので、ひととおり目を通すと、開幕節から第25節までのほぼすべての節で、“事件”が起きていることがわかる。
レフェリー委員会はこうした状況をどう受け止めているのか。ベラスコ・カルバーヨの見解はこうだ。
「よくわかっていない人たちは、VARにはペナルティエリア近くのファウルをなくす力さえあると思っているけれど、そんなことはない。ジャッジに関する論争が増えているのは、VARには関係のないことまでVARのせいにされているからだ」
VARはあくまで主審をアシストするものであり、万能の裁定システムではない。モニターで確認したプレーをどう解釈するかは主審次第であって、VARは干渉しない。つまり、不満の矛先は従来通り主審に向けられるべきで、真に物議を醸しているのはVARではなくVARの役割を把握していない人たちということだ。
それゆえベラスコ・カルバーヨは、VARの最初の改善点として「メディア関係者や選手、監督、観客のVARに対する理解を深めること」を挙げている。
平均115秒試合が止まることの影響。
だが、実際に使ってみてわかったVARの問題は他にもある。それは、VAR介入からレフェリーが判定を下すまでに要する時間だ。
第28節エイバル対バジャドリー戦で記録された4分33秒(85分50秒のファウルから90分23秒のPKまで)は例外としても、オペレーションルーム内の映像チェックだけで平均69秒、主審がフィールド脇のモニターを自らチェックした場合は平均115秒も試合は止まる。
これが選手に好ましくない影響を及ぼしているとスポーツ心理学の専門家パトリシア・ラミーレスはいう。
「わたしたちの脳はマルチタスクに対応しています。けれど向き合うタスクを切り替える度、集中は途切れます。このケースでいうと試合に対する集中です。さらに、いざ再開となってもすぐ元のように集中することはできず、1、2分の『ウォーミングアップ』が必要になるのですが、そこまでやっても結局中断前のレベルで集中することはできません」