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ダルビッシュの肘に起こった真実。
「やっぱり、野球が好きなんやな」
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byGetty Images
posted2018/08/28 07:00
目先の復帰時期よりも重要なのは、ダルビッシュ有が万全でマウンドに帰ってくることだ。
「彼をサポートしようじゃないか」
ダルビッシュは今後、6週間から9週間の安静期間を経て、リハビリを再開する。トレーニングを重ねて最終検査の結果が良ければ、12月頃にはキャッチボールも始められるだろう。
ただし、「ストレス反応」という聞き慣れない疾患がよく分からない。その治療法や回復具合も症例が少ない。つまり、「キャンプには間に合うだろう」という楽観論と同じぐらい、そうしようと思えば幾らでも悲観的になることができる。
「そのまま投げ続けるとたぶん、疲労骨折になりますよってことだと思うけど、僕の痛み的に、骨はたぶん、二の次やと思うんです。上腕三頭筋の肉離れがずっとあったんだと思う」
本当に治癒するのか? 再発する可能性はないのか? 否定的な考えが頭の中を巡りそうになった頃、ツイッターにファンのメッセージが飛び交い始めた。匿名性の高いSNSだ。今まで通り、批判や中傷をする輩も相変わらず多かったが、1つのメッセージに目が留まる。
「カブス・ファンよ、投げられないことについてユウ・ダルビッシュをバッシングするんじゃなく、彼をサポートしようじゃないか。
@faridyu(ダルビッシュのアカウント)、お願いだから、これを闘い抜いて良くなってください」
Continue to fight through itを「これを闘い抜く」と訳したのは正しくないかも知れないが、意味はそう違わない。大事なのはその英語表現が、とてもシンプルなメッセージを届けていることだ。
決して「あきらめた」とは言わなかった。
考えてみれば、ダルビッシュは1回目のマイナー調整登板の後、あまりの痛みに「こらアカン」と思っていたのに、「もう、あきらめた」とは言わなかった。
オフレコ話で思わず弱音を吐くことはあっても「もうダメだ」と言ったことは一度もない。
なぜだろう?
いつだったか、野球場の片隅で、彼がこう漏らしたのを思い出す。
「なんでか知らんけど、昔は何にでもムカついていた。そういう自分が大人になって、父親になって、何よりも家族が大事になって、野球やるモチベーションとか『どうなるんかな?』って、ちょっと心配したこともあった。でも結局、今でも投げることは楽しい。
投げることが楽しいってことは、やっぱり、野球が好きなんやなって思うんですよね」
遠くから眺めていると唯我独尊に見えるかも知れないが、ある意味、簡明素朴、ある意味、純真無垢な人である。
「来年に向けて、すごく長い時間がある。もう1回、自分を見直してやっていきたい」
今はただ、そのクールな情熱を信じるだけだ――。