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ダルビッシュの肘に起こった真実。
「やっぱり、野球が好きなんやな」

posted2018/08/28 07:00

 
ダルビッシュの肘に起こった真実。「やっぱり、野球が好きなんやな」<Number Web> photograph by Getty Images

目先の復帰時期よりも重要なのは、ダルビッシュ有が万全でマウンドに帰ってくることだ。

text by

ナガオ勝司

ナガオ勝司Katsushi Nagao

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 あ、ヤバい――。

 思わず、口走っていた。

 8月19日のよく晴れた日曜日。カブス傘下のマイナーリーグA級サウスベンドの本拠地フォーウインズ・フィールドのマウンド。2イニング目のウォーミングアップを始めたダルビッシュ有投手の姿を見て、不覚にもその「嫌な言葉」を口にしてしまった。

 1球、2球と腕の振りに鋭さがまったくない。どこか鈍く、どこか重い。5球目を投げ終えたところで右腕を一度、クルッと回した。それまで1球ごとにポツ、ポツと広がっていた黒いシミのようなものが、心の中に一気に広がった。

 6球目はカーブ。変化も軌道も今まで見たことがないぐらいに緩かった。表情でも分かる。ああ、何か良くないことが起こっているのだ、と。

部屋に漂う重たい空気。

 約2カ月ぶりに行われたマイナーでの調整登板は、わずか1イニング19球で終わった。

「(試合前の)投球練習も、1イニング目も良かったのに、急に来た感じだった」

 降板後、ダルビッシュは静かにそう言った。喉が渇いていることに気づく。肩に力が入る。自然と気構えている。彼が自ら、「もうダメだ」と言うのではないか、と。

「……いや、本当に考えますよ、さすがに。ここまで投げられないと、ねえ。神様は自分に何を教えようとしているのか……まったく分からない」

 田舎町のマイナーリーグ球場の小さなインタビュールームに漂う空気。それはどこにも行き場のない感情の澱みのようだった。

 カブスがダルビッシュの今季中の復帰を見送ったと発表したのは翌々日の21日、遠征先のデトロイトでのことだ。

 20日に行われた精密検査の結果、「ストレス反応と右上腕三頭筋の肉離れ」だと判明した。シカゴから電話取材に応じたセオ・エプスタイン編成本部長は、「そのストレス反応が、5月末から彼をずっと悩ませてきたことなのだと確信しました」と言った。

【次ページ】 骨折は見当たらず、靭帯も良い状態。

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