オリンピックへの道BACK NUMBER
コーチングとは“技術”ではない。
スポーツに学ぶ「愛する力」の価値。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2017/12/24 09:00
LS北見を率いて2018年平昌オリンピック出場を決めた本橋麻里。指導者時代の経験も今に生きているのだろうか。
本橋麻里「チームの全員を好きになれるかどうか」
フィギュアスケートの指導者として佐野稔、長久保裕、羽生結弦ら数多くのフィギュアスケーターの育成に携わってきた都築章一郎は、「伸びそうな子はなんとなく分かる」と言う。その上で、このように語ってもいる。
「いろいろな子供がいますね。それはそうなんですけれど、でもどの子もね、大事なんですよ」
平昌五輪代表を決めたLS北見の本橋麻里が、以前語った言葉も思い起こされる。
本橋は国際大会に出場したジュニアチーム指導の立場に就いたことがある。そこで得たことについて、こう語った。
「コーチって、チームの全員を好きになれるかどうかが大切なんだと思いました。いろいろな選手がいます。でもみんなを好きになれれば、チームはうまく行くんだと思うんです」
自分で選べるとは限らない人間たちを愛すること。
彼らの言葉には、共通したものがないだろうか。
それを最もシンプルに表しているのは、ラグビー日本代表、早稲田大学などの指導者として実績を残した大西鐵之祐の言葉だ。大西を描いた藤島大氏の『知と熱』(文春文庫)に、次の一節がある。
<コーチに最も必要な資質とは。大西に問うてみた。即答だった。
「そこにいる人間を愛する能力だ」>
チームでも何でも、そこにいる選手やスタッフを選ぶことができるとは限らない。その場に集まってくる人たちがいて、その集団のコーチとなって指導し、あるいはリーダーとして率いることになる。
現場で選手の育成、強化に携わる人たちが真っ先に語ったのは、その場の人たちを愛せるか、好きになれるか、彼らに力を注げるか、彼らのために生きられるかであった。
ここにあげた人たちばかりではない。同じ趣旨の言葉は、これまでも耳にしてきた。その土台があってこそ、ではどのようにして育てるのか、という技術が問われるのだ。