濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
東京女子プロレスが人気上昇中!
キーワードは“等身大”への感情移入。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2017/08/20 08:00
昨年タイトルマッチを経験し、試合ぶりへの評価も上がっている辰巳リカ。
お手本がいない中で磨かれたプロレス観とは?
他のスポーツではなく、演劇やバンドやアイドルでもなく、プロレスだからよかったんだとミサヲは思っている。
「表現という意味で大枠では似ていると思うんですけど、プロレスは歌やお芝居のようにお客さんに直接、訴えかけるものではないんですよね。リングでは相手と闘って、そのことでお客さんに訴えかける。路上プロレスも、イベントですけど“闘い”っていうところに感じるものがあったんです。人が痛い思いをしてるのを見て、笑ったり驚いたり元気づけられたりする。“これはなんだ?”って。ましてその時の私は“大敗”してる状態だったので、余計に感じるものがあったのかもしれない」
旗揚げ時の東京女子プロレスには、他団体でキャリアを積んだ先輩レスラーがいなかった。最初は新人だけで大会を行なっていたのである。指導するのは基本的にDDTの男子選手で、だから“女子プロレスのお手本”はなく、選手たちは手探りでキャラクターやファイトスタイル、それにプロレス観そのものを磨いてきた。きっとそれがよかった。ブルーハーツも、ももクロも、キャットウーマンも、誰に教わるのでもなく自分で考えたから出てきた比喩だろう。
東京女子プロレスでは試合後のサイン会やチェキ会も人気だ。8月12日の板橋大会では、選手たちの浴衣姿が好評だった。等身大の彼女たちは“プロレスの申し子”でも“選ばれし者”でもないのだろう。ただ、ファンは肉体や技術だけを見ているのではない。悩みや苦しみや、それを乗り越えたからこそ得られる喜びを選手と共有している。超人や怪物ではないけれど、そんなレスラーたちは我々の親愛なる隣人だ。そう言うと「それはキャットウーマンじゃなくスパイダーマンですけどね」とミサヲからツッコミが入りそうだけれども。